保険がきく診療と、保険がきかない診療(自由診療)を一緒に受けることは、原則として認められていません。一緒に受けた場合は、本来保険がきく診察・検査・入院の分も含めて、費用は全額自己負担になります。例外は、国が定めた「保険外併用療養費制度」(先進医療などの評価療養、患者申出療養、選定療養)に当たる場合で、このときは保険外の部分だけが全額自己負担です。自由診療の費用は高額療養費の対象になりません。このページでは、治療を受けるかどうかの判断には立ち入らず、費用と制度上の扱いだけを説明します。

原則:保険診療と保険外の診療は一緒に受けられない

日本の健康保険では、保険がきく医療と保険がきかない医療を同時に受けることを、いわゆる「混合診療」と呼びます。厚生労働省は2025年7月9日付けの周知文で、混合診療は「原則として認められておらず」、実施した場合には保険適用されている医療も含めて費用は全額自己負担になると説明しています。

厚生労働省が挙げる理由は2つです。

  • 先進的な医療が保険外にとどまり続け、患者の負担が不当に拡大するおそれがある
  • 科学的根拠のない特殊な医療の実施を助長するおそれがある

「保険外の部分だけ自費で払えば、残りは保険がきく」と思っていませんか。実際は、制度の例外に当たらない限り、そうはなりません。保険がきかない診療を受けることにしたとたん、その治療にかかわる検査や入院まで、10割で払うことになる場合があります。ここが一番の落とし穴です。

費用を比べる:同じ100万円の治療でも、自己負担は3倍以上違う

厚生労働省が先進医療の説明に使っている例で比べます。総医療費が100万円、そのうち保険外の部分が20万円、保険診療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料など)が80万円の治療です。70歳未満で、年収約370〜770万円の区分ウの人とします。

受け方保険外の20万円保険診療と共通する80万円自己負担の合計
先進医療として受けた場合(保険外併用療養費)200,000円(全額自己負担)3割で240,000円。高額療養費で90,940円まで下がる290,940円
例外に当たらない形で併用した場合(混合診療)200,000円800,000円(全額自己負担)1,000,000円

先進医療として受けた場合の80万円の部分は、通常の保険診療と同じ扱いです。窓口負担3割の24万円に高額療養費がかかり、2026年8月診療分からの区分ウの上限、85,800円+(80万円−28万6千円)×1%=90,940円で止まります。差は709,060円。混合診療に当たると、この差がまるごと自己負担に加わる計算です。

区分エ(年収約370万円まで)の人なら、保険診療と共通する部分の上限は61,500円で、先進医療として受けた場合の合計は261,500円になります。住民税非課税の区分オなら36,900円で、合計236,900円です。

自由診療の料金は、医療機関がそれぞれ決めます。上の表の「混合診療」の行は、仕組みを比べるために同じ金額で置いた計算です。実際の請求額は、必ず受ける前に書面で確かめましょう。

例外:保険外併用療養費制度の3つの種類

国は、将来の保険適用を目指す医療などについて、安全性や有効性を確認するルールのもとで保険診療との併用を認めています。これが保険外併用療養費制度です。この制度に当たると、保険診療と共通する「基礎的部分」は保険から給付され、保険外の「上乗せ部分」だけを患者が払います。

種類中身保険導入
評価療養先進医療、治験に係る診療、薬事承認後で保険収載前の医薬品等の使用、一部の適応外使用など保険導入のための評価を行う
患者申出療養国内未承認の医薬品等を使いたい患者の申出から始まる仕組み(2016年度から)保険導入のための評価を行う
選定療養差額ベッド、予約診療、時間外診療、大病院の初診・再診、180日以上の入院、制限回数を超える医療行為など保険導入を前提としない

評価療養と選定療養を扱う医療機関には、決まりがあります。院内の見やすい場所に内容と費用を掲示すること、事前に治療内容や負担金額を説明して同意を得ること、それぞれの費用の領収書を出すことです。費用を考えるときは、勧められた治療がこの制度に当たるのかどうかを最初に確かめましょう。

先進医療の費用

先進医療は評価療養の1つで、2026年10月現在で71種類あります。費用の扱いは次のとおりです。

  • 「先進医療に係る費用」(技術料)は全額自己負担。額は医療の種類や病院によって異なる
  • それ以外の診察・検査・投薬・入院料などは、一般の保険診療と同じ扱い。窓口では3割などの一部負担金を払う
  • 一部負担金の部分には高額療養費が適用される。技術料の部分は高額療養費の対象外

「先進医療を受けると、入院費まで全部自費になる」と心配する人がいます。実際は、全額自己負担になるのは技術料の部分だけです。協会けんぽも、保険外併用療養費の差額部分は高額療養費の対象にならないと明記しています。

先進医療を受けるときの手続きは、通常の保険診療と同じで、マイナ保険証か資格確認書で受診します。先進医療が行われるのは、患者が希望し、医師がその必要性と合理性を認めた場合です。医療機関から治療内容と費用の説明を受け、納得したうえで同意書に署名する流れです。民間の医療保険やがん保険に先進医療の特約を付けている人は、約款で対象と支払条件を確かめておきましょう。

患者申出療養の仕組み

患者申出療養は、国内で承認されていない医薬品などを、保険診療と併用して使いたいという患者の申出から始まる制度です。2016年度から実施されています。費用の扱いは先進医療と同じ形で、未承認薬などの「患者申出療養に係る費用」は全額自己負担、一般の診療と共通する部分には保険が適用されます。

順番やること目安
1主治医(かかりつけ医)に相談する最初の窓口は主治医
2臨床研究中核病院、または患者申出療養の相談窓口がある特定機能病院に相談する実施計画を作れるかを検討
3臨床研究中核病院が作る書類を添えて、患者本人が国に申出る未成年者などは法定代理人が提出できる
4国の会議で安全性・有効性・実施計画を審査する前例のない医療は原則6週間、前例がある医療を他の医療機関で行う場合は原則2週間

「患者申出療養を使えば、未承認薬も保険で受けられる」という理解は正しくありません。厚生労働省は、未承認薬の費用など保険適用されていない部分は原則として患者の自己負担になると説明しています。対象になるのは、将来の保険適用を目指す計画が立てられ、そのための科学的根拠がある医療です。根拠がない医療や、計画を作れない医療は対象になりません。6週間という目安は、国に書類を出してからの期間です。その前に、調べる期間と計画を作る期間が別にかかります。

自由診療と高額療養費

高額療養費は、健康保険の一部負担金に上限をかける制度です。保険がきかない自由診療の費用は、もともと一部負担金ではないので、何十万円払っても上限はかかりません。混合診療に当たって全額自己負担になった場合は、保険がきくはずだった検査や入院の分も含めて、高額療養費の計算の外に出ます。

がんの治療は、数か月続くことも珍しくありません。保険診療の負担には、月ごとの上限、4か月目から下がる多数回該当、2026年8月に新設された年間上限があります。自由診療には、こうした上限がありません。1回あたりの料金が同じでも、回数が増えれば総額は回数に比例して増えます。保険診療の負担の上限は高額療養費のページで計算できます。

自由診療・先進医療と医療費控除

医療費控除は、保険がきくかどうかで対象が決まる制度ではありません。国税庁が示す対象は「医師または歯科医師による診療または治療の対価」で、範囲は「その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」です。治療の対価として払った自由診療や先進医療の費用は、対象になりえます。厚生労働省も、先進医療の領収書は医療費控除を受ける場合に必要になるので大切に保管するよう案内しています。

一方で、マイナポータルから取り込む医療費通知情報には、保険外の支払いは入りません。保険外の費用は、領収書から自分で明細書に書き込みましょう。保険金で補てんされた分を差し引くなど、計算の細かい決まりは医療費控除のページにまとめています。控除で戻るのは、払った額に税率をかけた分の税金です。払った額がそのまま戻るわけではない点は、費用を考えるときに押さえておきましょう。

上の表で先進医療として受けた例で計算します。その年に払った医療費がこの290,940円だけで、保険金などによる補てんがなければ、控除額は290,940円−10万円=190,940円です。課税される所得金額が330万〜695万円未満の人は所得税の税率が20%なので、所得税は約38,000円軽くなります(このほかに復興特別所得税があります)。29万円の支払いに対して、戻る税金は1割強です。

民間の保険から、医療費の補てんを目的とする給付を受けたときは、その額を医療費から差し引きます。差し引くのは、その給付の対象になった医療費の額までです。給付が先進医療の技術料を上回っても、超えた分をほかの医療費から引く必要はありません。どの給付が補てん目的に当たるかは、約款を読み、迷えば税務署に確かめましょう。

選定療養のうち差額ベッド代は、本人や家族の都合だけで個室に入ったときは医療費控除の対象外です。

費用の見通しと、治療の判断は別に考える

本サイトの監修者・本村ユウジの相談記録を数えると、2010〜2026年の相談者3,192名のうち207名(6.5%)、約15人に1人が、自由診療・先進医療の費用に触れていました。自由診療を勧められたときは、費用の不安と、治療を選ぶ迷いが重なりやすくなります。

このページで示せるのは、保険がきくかどうか、全額自己負担になる範囲、高額療養費と医療費控除での扱いまでです。勧められた治療を受けるかどうかは、費用だけで決められるものではありません。費用の見通しとは別に、その治療が今の治療計画のなかでどういう位置づけなのかを、主治医に確かめましょう。主治医以外の意見を聞きたい場合は、セカンドオピニオンという方法もあります。

支払う前に確かめること

自由診療は、医療機関ごとに料金が違い、支払い方もさまざまです。契約や支払いの前に、次の点を書面で確かめておくと、あとからの食い違いを減らせます。

  • 見積もりを書面でもらったか(口頭の説明だけで決めない)
  • 1回あたりの料金だけでなく、予定している回数と総額が書いてあるか
  • 検査・診察・入院など、治療以外にかかる費用が総額に含まれているか
  • 途中でやめた場合に、払った費用がどう扱われるか(前払いの返金の有無と計算方法)
  • 保険診療と同時に受ける部分があるか。ある場合、保険外併用療養費制度(先進医療・患者申出療養など)に当たるのか、それとも保険診療の部分まで全額自己負担になるのか
  • いま通っている病院での保険診療に影響が出ないか(主治医に伝えてあるか)
  • 費用ごとの金額が分かる領収書が出るか(医療費控除の明細書に使う)
  • 加入している民間保険で支払いの対象になるか(先進医療特約などの約款)

見積もりが出たら、高額療養費の上限がかかる保険診療の負担と並べて、1年分の総額を書き出してみましょう。治療が年単位で続く場合、生活費や収入の見通しとあわせて考える必要があります。治療費の全体像はがんの治療費はいくらかかるか、手元のお金が足りないときの制度はお金がないときで整理しています。

よくある質問

自由診療を受けると、それまでの保険診療も全部自費になりますか?

保険外併用療養費制度の例外に当たらない形で、保険診療と保険外の診療を一緒に受けた場合は、保険適用されている医療も含めて費用は全額自己負担になると厚生労働省は説明しています。どの範囲が「一緒に」に当たるかは、受ける前に医療機関に確かめましょう。

先進医療の費用に高額療養費は使えますか?

先進医療の技術料は全額自己負担で、高額療養費の対象外です。診察・検査・投薬・入院料など保険診療と共通する部分の一部負担金には、高額療養費が適用されます。

自由診療の費用は医療費控除の対象になりますか?

国税庁の基準は、医師による診療または治療の対価で、病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分かどうかです。保険がきかないことだけを理由に対象外にはなりません。治療の対価として払った費用は、領収書を残して申告しましょう。

患者申出療養なら、未承認薬に保険が使えますか?

使えません。未承認薬の費用など保険適用されていない部分は、原則として自己負担です。保険が適用される範囲は、診察・検査・投薬・入院料など一般の診療と共通する部分に限られます。

見積もりの総額が払えるか不安です。どこに相談できますか?

治療費の支払いや生活費の相談は、がん診療連携拠点病院などにあるがん相談支援センターで、無料で受けられます。費用の見通しと治療の位置づけの両方を、主治医とあわせて確かめておきましょう。