40〜64歳の人も、がんが原因で介護が必要になったときは介護保険を使えます。法令では、介護保険を使える16の「特定疾病」の1つ目に、がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)が挙がっています。自己負担は、40〜64歳なら所得にかかわらず1割。在宅サービスの上限は、要介護3で月270,480円分(1単位10円の目安)で、使い切っても自己負担は27,048円です。申請から認定までは原則30日以内ですが、認定は申請した日にさかのぼって効力を持ちます。状態が変わりやすいがんでは、迷ったら先に申請しましょう。
40〜64歳が介護保険を使える条件
「介護保険は65歳から」と思っていませんか。40歳から64歳の人は、介護保険の第2号被保険者です。ただし、サービスを使えるのは、介護が必要になった原因が「特定疾病」のときに限られます。介護保険法施行令第2条は16の病気を挙げていて、その1つ目ががんです。
| 年齢 | 区分 | 介護保険を使える条件 | 自己負担 |
|---|---|---|---|
| 40〜64歳 | 第2号被保険者 | 要介護(要支援)の原因が特定疾病(がんを含む16種類) | 1割 |
| 65歳以上 | 第1号被保険者 | 原因を問わず、要介護(要支援)と認定されたとき | 1割(一定以上の所得があると2割か3割) |
法令上のがんの表現は「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る」です。がんと診断されただけでは当たらず、主治医がこの判断をしていることが条件になります。当たるかどうかを最終的に判断するのは、市区町村の介護認定審査会です。
申請書には「がん」とだけ書けばよい
以前は「末期がん」と書く必要があり、本人が書きづらいという指摘がありました。厚生労働省は2019年2月の事務連絡で、申請書の特定疾病の欄は単に「がん」と書いたもので受理してよいと市区町村に伝えています。窓口でも「末期がん」という言葉ではなく、介護保険を使える状態であることを主治医に確認したかどうかを聞くにとどめるなど、本人の心情に配慮するよう求めています。2019年には、厚生労働省のホームページの「【がん末期】」という表記も削除されました。
申請から認定までの流れ
| 順番 | やること | 誰が・どこで |
|---|---|---|
| 1. 申請 | 要介護認定の申請書を出す。40〜64歳は医療保険に加入していることがわかるもの(資格確認書など)も持参 | 本人か家族が市区町村の窓口へ。地域包括支援センターに相談してもよい |
| 2. 認定調査 | 調査員が自宅や病院を訪ね、心身の状態を聞き取る | 市区町村の調査員 |
| 3. 主治医意見書 | 市区町村が主治医に作成を依頼する。作成料の本人負担はない | 主治医 |
| 4. 一次判定・二次判定 | コンピュータの判定のあと、介護認定審査会が要介護度を決める | 市区町村 |
| 5. 認定・通知 | 要支援1・2、要介護1〜5、非該当のどれかが通知される。原則として申請から30日以内 | 市区町村 |
| 6. ケアプラン | 要介護1以上はケアマネジャー、要支援は地域包括支援センターが作る | 居宅介護支援事業者など |
30日以内という期限は、介護保険法第27条第11項に書かれています。調査に時間がかかるなど特別な理由があるときは、市区町村は30日以内に延期の見込みを通知したうえで延ばせます。新規の認定の有効期間は原則6か月(状態に応じて3〜12か月)です。
がんでは申請を急ぐ理由
厚生労働省の2024年5月の事務連絡は、国立がん研究センターの遺族調査の結果を引いています。亡くなる前の6か月間に介護保険を一度も使わなかった20,807名のうち、4,849名(23.3%)が「申請したが利用できなかった」と答えていました。そのうち2,413名(49.8%)の理由は「介護認定に必要な調査を受ける前に患者さまが亡くなられた」。1,565名(7.5%)は、介護保険を知らなかったと答えています。
がんは、自分で歩けていた人が数週間で起き上がれなくなるなど、状態が急に変わることがあります。認定の手続きに最大30日かかる前提で動くと、サービスが間に合わない場合がある、ということです。
介護保険法は、要介護認定は申請のあった日にさかのぼって効力を生ずると定めています(第27条第8項)。申請した日から、認定された要介護度の範囲でサービスを使えるということです。「まだ介護はいらないかもしれない」と迷う段階で申請しておき、使わなければ使わないで構いません。申請の日付が早いことが、そのまま備えになります。
認定のあとに状態が変わったら、有効期間の途中でも申請できるのが「区分変更」です。事務連絡は、がん等の人から区分変更の申請があれば、要介護度の変更などを速やかに行うこととしています。認定を受けたときより明らかに介助が増えたら、ケアマネジャーに区分変更を相談しましょう。
認定の前にサービスを始める「暫定ケアプラン」
同じ事務連絡は、保険者(市区町村)の判断で必要があると認めた場合、申請を受けたあと認定結果が出る前の段階でも、暫定ケアプランを作ってサービスを始められるとしています。申請を受けたその日のうちに調査員が認定調査を行い、ケアマネジャーが暫定ケアプランを作ってサービスを始める対応も行われていると書かれています。
事務連絡が示す迅速化の扱いは、ほかに次の3つです。
- 入院中の人の認定調査を、医師や看護師が同席してオンラインで行える(保険者の判断)
- 主治医意見書を、傷病名や一次判定に必要な項目などに限った記載でも受け付けられる(保険者の判断)
- 介護認定審査会を3人の合議体で開いたり、オンラインや持ち回りで行ったりできる
どれも「保険者の判断」で行うもので、すべての市区町村が同じ対応をするとは限りません。暫定ケアプランでサービスを始めたあと、認定の結果が想定より軽かった場合や非該当だった場合に費用がどうなるかも、始める前に市区町村かケアマネジャーに確かめましょう。入院中の人は、病院の相談窓口や、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに、退院前から相談しておくと手続きを早く始められます。
要介護度ごとの支給限度額
自宅で使うサービスには、要介護度ごとに1か月に使える量の上限(区分支給限度基準額)があります。上限は「単位」で決まっていて、1単位の単価は地域とサービスで違います。下の円の額は1単位10円で計算した目安です。
| 区分 | 1か月の上限(単位) | 円の目安 | 上限まで使ったときの1割負担 |
|---|---|---|---|
| 要支援1 | 5,032単位 | 50,320円 | 5,032円 |
| 要支援2 | 10,531単位 | 105,310円 | 10,531円 |
| 要介護1 | 16,765単位 | 167,650円 | 16,765円 |
| 要介護2 | 19,705単位 | 197,050円 | 19,705円 |
| 要介護3 | 27,048単位 | 270,480円 | 27,048円 |
| 要介護4 | 30,938単位 | 309,380円 | 30,938円 |
| 要介護5 | 36,217単位 | 362,170円 | 36,217円 |
上限を超えて使った分は、全額が自己負担です。計算例を挙げます。要介護3の人が1か月に30万円分のサービスを使った場合、上限の270,480円までは1割の27,048円、超えた29,520円は全額。合わせて56,568円になります。上限の内側に収めるか、超える分を自費で足すかは、ケアマネジャーとプランを作るときに決めましょう。
40〜64歳の自己負担は1割
「収入が多いから2割か3割になる」と心配する人がいます。介護保険法で2割・3割の負担になるのは、第1号被保険者(65歳以上)で一定以上の所得がある人です。40〜64歳の第2号被保険者は、所得にかかわらず1割です。現役で働いていた人や、配偶者に収入がある世帯でも変わりません。
施設に入る場合は、1割の負担のほかに居住費、食費、日常生活費がかかります。このサイトでは施設や事業所の紹介はしていません。施設を考えるときは、市区町村の介護保険の窓口か地域包括支援センターに相談しましょう。
高額介護サービス費と、医療費との合算
高額介護サービス費(毎月)
1か月の介護サービスの自己負担(福祉用具の購入費や食費・居住費など一部を除く)が上限を超えると、超えた分が戻ります。市区町村への申請が必要です。
| 世帯の区分 | 1か月の上限 |
|---|---|
| 市区町村民税の課税世帯(課税所得380万円未満) | 44,400円(世帯) |
| 課税所得380万円以上690万円未満 | 93,000円(世帯) |
| 課税所得690万円以上 | 140,100円(世帯) |
| 市区町村民税の世帯非課税 | 24,600円(世帯)。年金収入等が82.65万円以下の人は個人15,000円 |
| 生活保護を受けている人など | 15,000円(個人) |
課税所得による区分は、同じ世帯の65歳以上の人の課税所得で判定すると案内されています。支給限度額の表で見ると、要介護5の上限まで使っても1割は36,217円で、44,400円に届きません。40〜64歳の本人だけが使っている世帯では、高額介護サービス費が出る場面は多くありません。家族も介護サービスを使っている世帯で、合計が上限を超えるかを見ましょう。
高額医療・高額介護合算療養費(1年)
がんの人は、介護保険の自己負担と同時に、医療費の自己負担も続きます。同じ医療保険に入っている世帯で、毎年8月から翌年7月までの1年間の医療と介護の自己負担を合計し、基準額を超えた分が戻る制度が、高額医療・高額介護合算療養費です。高額療養費と高額介護サービス費で戻った分は除いて計算します。70歳未満の基準額(協会けんぽ)は次のとおりです。
| 所得区分(70歳未満) | 年間の基準額 |
|---|---|
| 区分ア(標準報酬月額83万円以上) | 212万円 |
| 区分イ(標準報酬月額53万〜79万円) | 141万円 |
| 区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円) | 67万円 |
| 区分エ(標準報酬月額26万円以下) | 60万円 |
| 区分オ(市区町村民税の非課税者等) | 34万円 |
計算例です。区分ウの人が、1年のうち8か月は医療費の自己負担が高額療養費の多数回該当の上限44,400円で、介護は12か月とも要介護3の上限まで使って27,048円だったとします。医療355,200円+介護324,576円=679,776円。基準額67万円を超えた9,776円が戻ります。
70歳未満の医療の自己負担は、医療機関ごと、入院・外来ごとなどに1か月21,000円以上のものだけが合算の対象です。食事代や差額ベッド代は入りません。医療と介護のどちらかが0円なら支給されず、超えた額が501円以上のときに限られます。申請先は加入している医療保険(協会けんぽなら都道府県支部)です。医療費の上限そのものは高額療養費(がんの場合)、1年の医療費の見通しはがんの治療費はいくらかかるかで確かめられます。
訪問看護は医療保険になる
要介護認定を受けた人の訪問看護は、本来は介護保険が優先です。ただし、厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第7)に当たる人は、要介護認定を受けていても医療保険の訪問看護になります。別表第7の1つ目は「末期の悪性腫瘍」です。
医療保険の訪問看護は通常は週3回までですが、別表第7に当たる人は週4日以上、1日2〜3回の訪問も受けられます。訪問の回数を増やしたい時期に、この違いが大きくなります。末期の悪性腫瘍に当たるかどうかの判断は、訪問看護指示書を書く主治医の役割です。介護保険のケアプランの組み方がどう変わるかは、ケアマネジャーに確かめましょう。
福祉用具のレンタル
介護ベッド(特殊寝台)や床ずれ防止用具、車いすなどは、介護保険でレンタルでき、自己負担は1割です。ただし、要支援1・2と要介護1の人は、特殊寝台や床ずれ防止用具などのレンタルが原則として対象外です。
がんの人には例外があり、2024年5月の事務連絡は、がんの急速な状態悪化などで、短期間のうちに日常的に起き上がりや寝返りが困難になることが確実に見込まれる人は、要支援や要介護1でも、保険者の判断でレンタルの費用を介護保険から出せると示しています。条件は、医師の医学的な所見(主治医意見書や診断書など)に基づく判断と、ケアマネジャーが開くサービス担当者会議などでの判断があり、市区町村が書面などで確認することです。要介護度が軽く出ても、ベッドが必要ならこの扱いを使えるか相談しましょう。
窓口に行く前に確かめること
- 主治医に、介護保険を使える状態か(特定疾病のがんに当たるか)を確認した
- 住んでいる市区町村の介護保険の窓口か、地域包括支援センターの連絡先を調べた
- 医療保険の加入がわかるもの(資格確認書など)と、主治医の名前・医療機関名を用意した
- 申請書の特定疾病の欄は「がん」とだけ書けばよいことを知っている
- 急ぎのときは、暫定ケアプランで認定前にサービスを始められるか窓口で聞く
- 入院中なら、病院の相談窓口に退院後の介護サービスの準備を頼んだ
- 高額介護サービス費と合算制度の申請先(市区町村と医療保険)を控えた
相談記録で介護保険に触れた人は3,192名中52名
監修者の本村ユウジが2010〜2026年に受けたがん相談の記録では、相談者3,192名のうち介護保険に触れていた人は52名(1.6%)でした。お金や制度のどれかに触れた822名と比べると多くありません。相談者は制度の名前ではなく、自分の言葉で困りごとを書いてくる傾向があり、40〜64歳でも介護保険を使えることが知られていない場面は多いと考えられます。障害年金も同じように知られていない制度です。仕事を続けられなくなった人はがんでも障害年金はもらえる、生活費全体に困っている人はがんで治療費が払えない・お金がないときも読みましょう。
よくある質問
主治医から「回復の見込みがない」と言われていないと申請できませんか?
申請はできます。厚生労働省の事務連絡は、特定疾病に当たるかは介護認定審査会の審査で判断するもので、申請を受け付ける時点で本人に確かめる必要はないとしています。ただし、40〜64歳でサービスを使うには、最終的に特定疾病のがんに当たると認められることが条件です。
認定が出る前に使ったサービスの費用はどうなりますか?
要介護認定は申請した日にさかのぼって効力を生じます。認定された要介護度の範囲なら、申請日以降のサービスは介護保険の対象です。ただし、結果が非該当や想定より軽い要介護度だった場合の扱いがあるので、暫定ケアプランで始める前に市区町村かケアマネジャーに確かめましょう。
65歳になったら手続きが必要ですか?
65歳からは第1号被保険者になり、介護が必要な原因を問わず使えるようになります。自己負担は1割ですが、一定以上の所得があると2割か3割になります。認定の有効期間や手続きは、市区町村から届く案内で確かめましょう。
介護保険と障害年金は両方受け取れますか?
介護保険はサービスの給付、障害年金は年金の給付で、別の制度です。手続きの窓口も審査も別々で、障害年金には初診日・保険料・障害の状態という独自の要件があります。障害年金の要件と請求の手順は障害年金の記事にまとめています。