がんは障害年金の対象です。日本年金機構の障害認定基準には「悪性新生物による障害」という節があり、がんそのものによる障害だけでなく、治療の影響で起きる全身の衰弱も認定の対象に入っています。令和8年度の障害基礎年金は2級で年847,300円(月約70,600円)、1級で年1,059,125円。厚生年金に入っている間に初診日がある人は、障害厚生年金が上乗せされ、2級に届かない3級でも受け取れます。請求できるのは原則として初診日から1年6か月後からで、人工肛門や喉頭全摘出などは、それより早く請求できる決まりがあります。

がんは「悪性新生物による障害」として認定される

「障害年金は、手や足、目や耳の障害のための制度」と思っていませんか。実際は、内臓の病気も対象で、がんには専用の認定基準があります。障害認定基準の第16節「悪性新生物による障害」は、がんによる障害を次の3つに分けています。

区分認定基準の表現読み方
ア悪性新生物そのもの(原発巣、転移巣を含む。)によって生じる局所の障害がんがある場所の機能が落ちた状態。転移したところも含む
イ悪性新生物そのもの(原発巣、転移巣を含む。)による全身の衰弱又は機能の障害がんによって体全体が弱った状態
ウ悪性新生物に対する治療の効果として起こる全身衰弱又は機能の障害手術や抗がん剤、放射線などの治療の影響で弱った状態

3つ目の区分は見落とされがちです。がんが画像で小さくなっていても、治療の影響で日中の多くを横になって過ごしているなら、その状態が認定の対象になります。

認定は、組織所見とその悪性度、検査成績、転移の有無、病状の経過と治療効果などを参考にして、具体的な日常生活状況等により総合的に行うと定められています。全身の衰弱と機能の障害を分けて考えることは「本来不自然なことが多い」と、基準自身が書いている点も特徴です。がんの病名や進み具合だけでは決まりません。見られるのは、毎日の暮らしで何ができて、何ができないか。

がんで肺や腎臓、神経などの働きが落ちた場合は、その臓器の節(呼吸器、腎疾患、神経系統など)の基準で認定されます。転移については、転移であると確認できたものは元のがんと「相当因果関係がある」と扱うと書かれています。

等級の目安:一般状態区分表(判定はしません)

第16節は、等級の例を「一般状態区分表」という5段階の表で示しています。下の表は認定基準の表現を短くまとめたものです。このサイトでは、あなたがどの等級に当たるかの判定はしません。判定するのは日本年金機構で、材料になるのは医師の診断書と、本人が書く病歴・就労状況等申立書です。

区分一般状態(認定基準の表現を要約)例示されている等級
ア無症状で社会活動ができ、発病前と同等にふるまえるなし
イ軽度の症状があり肉体労働は制限されるが、歩行、軽労働や座業はできる(例:軽い家事、事務)3級(著しい全身倦怠のため)
ウ歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要。軽労働はできないが、日中の50%以上は起きている3級または2級
エ身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要。日中の50%以上は床についていて、自力では屋外への外出等がほぼできない2級(衰弱又は障害のため)
オ身のまわりのこともできず、常に介助が必要。終日床につき、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られる1級(著しい衰弱又は障害のため)

区分ウは3級と2級の両方に出てきます。同じ「ウ」でも、全身倦怠の程度や衰弱の度合いで等級が分かれる、という書き方です。3級は厚生年金だけにある等級なので、初診日に国民年金だけに入っていた人は、1級か2級に当たるかどうかが分かれ目になります。

手術で生じる状態には別の基準がある

がんの手術のあとに残る状態のうち、いくつかは等級と認定の時期が具体的に決まっています。障害認定基準の第18節と第6節で確認できたものは次のとおりです。

状態認定基準の等級障害の程度を認定する時期
人工肛門を造設した3級造設した日から6か月を経過した日
新膀胱を造設した3級造設した日
尿路変更術を施した3級手術の日から6か月を経過した日
人工肛門+新膀胱、または人工肛門+尿路変更術2級遅いほうの日を基準に決める
人工肛門+完全排尿障害(カテーテル留置または自己導尿の常時施行が必要)2級遅いほうの日から6か月を経過した日
喉頭全摘出手術で発音に関わる機能を失った2級(原則)手術をした日

どの時期にも「初診日から1年6か月を超える場合を除く」という条件が付いています。つまり、1年6か月より前にこれらの日が来れば、その日が障害認定日になり、1年6か月を待たずに請求できます。人工肛門については、全身状態や術後の経過などから総合的に判断して、さらに上の等級に認定するとも書かれています。

計算例です。2026年1月に初診、2026年3月に人工肛門を造設した場合、認定の時期は6か月後の2026年9月です。初診日から1年6か月(2027年7月)より前なので、2026年9月が基準になります。

受け取るための3つの要件

障害年金を受け取るには、次の3つをすべて満たす必要があります。

要件障害基礎年金(国民年金)障害厚生年金(厚生年金)
1. 初診日国民年金の加入期間、20歳前、または日本に住む60〜64歳で年金に未加入の期間に初診日がある厚生年金の被保険者期間に初診日がある
2. 保険料の納付初診日の前日に、前々月までの加入期間の3分の2以上が納付済みか免除。または初診日が令和18年3月末日までで65歳未満なら、前々月までの直近1年間に未納がない
3. 障害の状態障害認定日に1級か2級障害認定日に1級から3級

初診日は「がんと診断された日」とは限らない

初診日は、障害の原因となった病気について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。がんの場合、別の症状で受診して検査を重ね、数か月後に診断がつくことがあります。その最初の受診日がいつになるかで、加入していた制度(国民年金か厚生年金か)と、納付要件を見る時点が決まります。最初にかかった医療機関と、いま診断書を書いてもらう医療機関が違うときは「受診状況等証明書」で初診日を証明する決まりです。最初の医療機関の名前と受診した年月は、早めに書き出しておきましょう。

会社を辞めたあとでも障害厚生年金になる

「会社を辞めて国民年金になったから、障害厚生年金はもう関係ない」と考える人がいます。要件は「初診日に厚生年金の被保険者だったか」です。在職中に初診日があれば、その後に退職していても障害厚生年金の対象になります。退職を考えている人は、がんで仕事を辞める前にもあわせて読みましょう。

納付要件の計算例も挙げます。初診日の前々月までの加入期間が240か月の人は、そのうち160か月(240×3分の2)以上が納付済みか免除なら要件を満たします。足りない場合の特例は、直近1年間に未納がないこと。免除の申請をしていた期間は「未納」ではなく「免除」に数えます。

障害認定日は初診日から1年6か月後

障害の程度を見るのは「障害認定日」の時点の状態です。原則は初診日から1年6か月を経過した日で、それまでに症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った場合はその日です。初診日が2025年4月10日なら、障害認定日は2026年10月10日になります。

時期起きること手続き
初診日加入制度と納付要件がこの日で決まる受診した医療機関と日付を控える
初診日から1年6か月障害認定日。この日の状態で等級を見る認定日から3か月以内の状態を書いた診断書を用意
認定日の翌月分から認定日に該当すれば年金が出る請求はいつでも可。ただしさかのぼれるのは5年分まで
認定日に該当しなかった後悪化して該当したら「事後重症」で請求請求日の翌月分から。65歳の誕生日の前々日までに請求

がんは、手術のあと落ち着いていた人が、再発や転移で急に状態が変わることがあります。障害認定日に該当しなくても、その後に悪化した時点で請求できる仕組みが「事後重症」です。事後重症は請求した日の翌月分からしか出ないため、悪化に気づいてから請求までの月数がそのまま受け取れない月数になります。迷っている間にも1か月分ずつ減っていく点に注意しましょう。

反対に、障害認定日の時点ですでに状態が重かったのに請求していなかった人は、認定日までさかのぼって請求できます。認定日と請求日が1年以上離れているときは、認定日から3か月以内の状態の診断書と、請求日前3か月以内の状態の診断書の2枚が必要です。

年金額(令和8年4月分から)

等級障害基礎年金(年額)障害厚生年金(年額)
1級1,059,125円+子の加算報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額243,800円
2級847,300円+子の加算報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額243,800円
3級なし報酬比例の年金額(最低保障635,500円)

障害基礎年金の額は昭和31年4月2日以後生まれの人のものです(それ以前の生まれは1級1,056,125円、2級844,900円、3級の最低保障633,700円)。子の加算は、2人目まで1人につき243,800円、3人目からは1人につき81,300円。子とは、18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で1級か2級の障害がある子です。配偶者の加給年金額は、生計を維持している65歳未満の配偶者がいるときに加わり、配偶者が一定の老齢厚生年金や障害年金を受ける権利を持つと止まります。

計算例を挙げます。障害基礎年金2級で、高校生と中学生の子が2人いる場合、847,300円+243,800円×2人=1,334,900円。月にすると約111,200円です。厚生年金に初診日がある人なら、ここに報酬比例の障害厚生年金が加わります。

報酬比例の額は、加入していた期間の給与と月数で人ごとに変わります。加入期間が300月(25年)に満たない人は300月として計算する決まりなので、若くして発病した人でも額が極端に小さくなりにくい仕組みです。自分の額は、年金事務所で試算してもらいましょう。

障害基礎年金か、1級・2級の障害厚生年金を受ける人は、国民年金の保険料が免除されます(法定免除)。国民年金の第1号被保険者は、年金証書が届いたら市区町村の窓口に相談しましょう。

傷病手当金と同時には満額で受け取れない

会社員が同じがんで傷病手当金と障害厚生年金を受けられる場合、傷病手当金は原則として出ません。ただし、障害厚生年金(同じ理由の障害基礎年金があれば合計)の360分の1が傷病手当金の日額より少ないときは、その差額が出ます。協会けんぽの申請書の記入の手引きに書かれている扱いです。健康保険組合や共済組合に入っている人は、加入先に確かめましょう。

傷病手当金は、支給が始まった日から通算1年6か月で終わります。障害認定日も原則として初診日から1年6か月後です。休職が長くなりそうな人は、傷病手当金の期間の終わりと障害年金の請求を、同じ時期の予定として考えておくと、収入が途切れる期間を作りにくくなります。日額の計算と調整の例は、傷病手当金(がんの場合)の記事で確かめましょう。

65歳が近い人・65歳以降の注意

年齢で気をつけたい点は、次の3つです。

  • 事後重症の請求は、65歳の誕生日の前々日までに出す必要があります。それを過ぎると、事後重症では請求できません
  • 初診日が60〜64歳で、年金に加入していない期間(日本に住んでいる場合)でも、障害基礎年金の初診日の要件は満たせます
  • 老齢年金など2つ以上の年金を受ける権利があるときは、原則として本人の選択でいずれか1つを受けます。提出する書類は「年金受給選択申出書」、出す先は年金事務所か街角の年金相談センター

どの組み合わせが有利かは、加入歴と年金額で変わります。窓口で両方の額を出してもらい、比べてから選びましょう。

請求の手順と書類

請求書を出す先は、加入していた制度で変わります。障害基礎年金だけの人は住所地の市区町村役場(初診日が第3号被保険者の期間なら年金事務所か街角の年金相談センター)、障害厚生年金の人は年金事務所か街角の年金相談センターです。

書類書く人・もらう先がんで気をつけること
年金請求書(基礎年金は様式第107号、厚生年金は様式第104号)本人。窓口に備え付け加入歴を窓口で一緒に確認する
医師の診断書(所定の様式)主治医障害の部位で様式が8種類ある。全身の衰弱などは「血液・造血器・その他の障害用」、喉頭全摘は「聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用」
受診状況等証明書初診の医療機関初診と診断書の医療機関が違うときに必要
病歴・就労状況等申立書本人発病から今までの受診、治療、仕事、暮らしの変化を時系列で書く
受取口座の通帳など、戸籍・住民票など本人マイナンバーの記入で省略できるものがある

日本年金機構は、診断書を作る前に年金事務所などへ相談するよう求めています。使う様式と、診断書に書く「症状の日付」を確かめる必要があるためです。主治医に頼む前に一度窓口に行きましょう。

病歴・就労状況等申立書は、診断書だけでは伝わらない日常生活の様子を補う書類です。一般状態区分表は「日中の50%以上は起きているか」「屋外への外出ができるか」で区分を分けています。1日のうち横になっている時間、外出の頻度、家事や身のまわりのことで家族の手を借りている場面を、具体的な数字で書きましょう。

年金を受け始めたあとも、障害の状態に応じて「障害状態確認届(診断書)」の提出が必要な年があります。日本年金機構から送られてくるので、期限内に出しましょう。

  • 初診日(最初に受診した医療機関の名前と、だいたいの年月)を書き出した
  • 初診日に入っていた年金(国民年金か厚生年金か)を確かめた
  • ねんきんネットか年金事務所で、保険料の納付状況を確かめた
  • 障害認定日(初診日から1年6か月、または人工肛門の造設から6か月など)を計算した
  • 年金事務所に予約し、使う診断書の様式を確かめた
  • 傷病手当金を受けている人は、加入先に調整の扱いを確かめた
  • 1日の過ごし方(横になっている時間、外出、介助)をメモし始めた

相談記録で障害年金に触れた人は3,192名中3名

監修者の本村ユウジが2010〜2026年に受けたがん相談の記録を数えると、相談者3,192名のうち、障害年金に触れていた人は3名でした。仕事の悩みに触れた人は310名、治療費の額に触れた人は244名いたのと比べると、ごくわずかです。障害年金は、制度の名前で相談してくる人がほとんどいない制度です。がんが対象になること自体が知られていない、と読めます。

「仕事を続けられない」「収入が減って生活が苦しい」という悩みの先に、障害年金がつながることがあります。生活費全体の見直しはがんで治療費が払えない・お金がないとき、40歳以上で介護が必要になってきた人は40歳からのがんと介護保険も読みましょう。

よくある質問

働いていると障害年金は受け取れませんか?

認定基準は、具体的な日常生活状況等により総合的に認定するとしており、働いているかどうかだけで決まるとは書いていません。一般状態区分表のイは「軽労働や座業はできる」状態を示しています。病歴・就労状況等申立書に、仕事の内容、勤務時間、休んだ日数、職場で受けている配慮を具体的に書きましょう。

国民年金だけに入っていた自営業です。人工肛門で受け取れますか?

人工肛門だけの場合、認定基準の等級は3級です。3級は厚生年金だけにある等級なので、初診日に国民年金だけだった人は、この基準だけでは対象になりません。全身の衰弱など、ほかの障害とあわせて1級か2級に当たるかどうかは、年金事務所に相談しましょう。

初診日から1年6か月たつ前に請求できますか?

人工肛門の造設(6か月後)、新膀胱の造設(造設日)、喉頭全摘出(手術日)のように、認定基準で認定の時期が決まっている状態なら、1年6か月より前に請求できます。それ以外は、1年6か月以内に症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った場合を除き、1年6か月を待つことになります。

再発や転移で状態が変わったらどうなりますか?

受給中に障害の程度が重くなったときは、額の改定を請求できる仕組みがあります(障害給付額改定請求書)。まだ受けていない人は、悪化した時点で事後重症として請求できます。どちらも、まず年金事務所に相談しましょう。