がんの在宅療養の費用は、3つの財布から出ます。医師の訪問診療と訪問看護は医療保険で、70歳未満は3割負担に高額療養費の上限がかかります。

ヘルパーや福祉用具のレンタルは介護保険で、40〜64歳は1割負担です。訪問の交通費やおむつ代などは実費になります。

医療と介護の両方の自己負担が1年続いたときは、合算して基準額(年収約370万円までの区分エなら60万円)を超えた分が戻ります。

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在宅療養の費用は3つに分かれる

病院から自宅に療養の場所を移すと、支払いの相手が増えます。訪問診療の医療機関、訪問看護ステーション、介護サービスの事業者、福祉用具の事業者などです。

請求書がばらばらに届くので、まずはどの保険の費用かで分けて考えましょう。

費用使う保険自己負担(70歳未満・40〜64歳)月の上限
医師の訪問診療・往診医療保険(療養の給付)3割高額療養費
訪問看護(末期の悪性腫瘍に当たる場合など)医療保険(訪問看護療養費)3割高額療養費
訪問介護、訪問入浴、通所サービスなど介護保険1割要介護度ごとの支給限度額、高額介護サービス費
介護ベッドや車いすのレンタル介護保険(福祉用具貸与)1割支給限度額の内側で使う
訪問の交通費、おむつ代など保険外(実費)全額なし

協会けんぽは、療養の給付の範囲に「在宅療養」を挙げています。医師が認めた人は自宅で医師の訪問診療を受けられ、訪問看護ステーションの看護師による訪問看護も受けられる、という説明です。

「家で療養すると、保険がきかずに全部自費になる」と思っていませんか。医師と看護師の訪問は、病院の外来と同じように健康保険の診療です。

訪問診療・訪問看護は、高額療養費の対象

訪問診療の自己負担は、病院の診療と同じく、月ごと・医療機関ごとに高額療養費の上限がかかります。マイナ保険証を使えば、窓口の支払いも上限までになります。

医療保険の訪問看護は「訪問看護療養費」として給付され、患者が払う基本利用料は、70歳未満の被保険者・被扶養者とも3割です。協会けんぽは、この基本利用料が高額療養費の対象になると案内しています。

基本利用料とは別に、交通費やおむつ代などの実費、営業時間外の対応のように希望して受けた特別なサービスの料金がかかります。事業者は、基本利用料とそれ以外を分けた領収書を出す決まりです。

がんの人の訪問看護は、介護保険ではなく医療保険になることがある

介護保険の認定を受けた人が訪問看護を使うときは、原則として介護保険が先に使われます。

ただし「末期の悪性腫瘍」など厚生労働大臣が定める疾病等に当たる人は、要介護認定を受けていても医療保険の訪問看護になります。

この場合、訪問看護の費用は介護保険の支給限度額の外で数えるという扱いです。限度額の枠をヘルパーや福祉用具に回せる、ということです。当たるかどうかは、訪問看護指示書を書く主治医が判断します。

訪問の回数の扱いは40歳からのがんと介護保険で説明しています。訪問診療の分と訪問看護の分をどう合算するかは、加入先に確かめましょう。

訪問診療の交通費は実費

厚生労働省の通知は、在宅医療に係る交通費を、診療報酬とは別に実費で患者から受け取れる費用の1つに挙げています。額は医療機関ごとに違い、高額療養費の計算には入りません。

実費を受け取るときは、内容と料金を明示した文書で同意を確かめ、ほかの費用と分けた領収証を出すことになっています。最初の契約のときに料金表をもらいましょう。

介護保険のサービスは1割、上限を超えた分は全額

40〜64歳の人が介護保険を使えるのは、介護が必要になった原因ががんなどの特定疾病のときです。自己負担は所得にかかわらず1割で、要介護度ごとに1か月に使える量の上限(支給限度額)があります。

上限の内側なら1割、上限を超えた分は全額が自己負担です。要介護度ごとの上限は介護保険の記事に表で載せています。

要介護度上限(1単位10円の目安)20万円分使った月の自己負担
要介護1167,650円16,765円+32,350円=49,115円
要介護3270,480円20,000円
要介護5362,170円20,000円

要介護1で20万円分使うと、上限の167,650円までは1割の16,765円、超えた32,350円は全額で、合わせて49,115円になります。要介護3と5は上限の内側なので、1割の2万円です。

がんは状態が短い期間で変わることがあります。認定のときより介助が増え、上限を超えそうになったら、ケアマネジャーに区分変更の申請を相談しましょう。

65歳以上の人は、一定以上の所得があると介護保険の自己負担が2割か3割になります。

福祉用具のレンタル

介護ベッドや車いす、床ずれ防止用具は、介護保険のレンタルで1割負担です。

要支援と要介護1の人は介護ベッドなどが原則として対象外ですが、がんの急な状態の悪化で、短い期間のうちに起き上がりや寝返りが難しくなることが確実に見込まれる人は、保険者の判断で対象になることがあります。

レンタルの費用も支給限度額の内側で数えます。ヘルパーの回数と、ベッドなどのレンタルの両方を入れると、上限に近づく月があります。

在宅療養の1か月と1年の試算

区分エ(年収約370万円まで)・要介護3の50代の人を例に、毎月同じ額がかかったと仮定して計算します。総医療費などの額は計算のための仮の数字で、平均ではありません。

項目前提1か月の自己負担12か月
訪問診療(医療保険)総医療費約7.3万円の3割22,000円264,000円
訪問看護(医療保険)総医療費7万円の3割21,000円252,000円
介護保険のサービスとレンタル20万円分の1割20,000円240,000円
実費(交通費・おむつ代など)仮に月5,000円5,000円60,000円
合計68,000円816,000円

訪問診療と訪問看護は、それぞれ区分エの上限61,500円に届きません。介護の2万円も、高額介護サービス費の上限(課税所得380万円未満の課税世帯で44,400円)に届きません。

月ごとの制度では、どれも払い戻しがない形です。

そこで使えるのが、1年単位の制度です。

高額医療・高額介護合算療養費

同じ医療保険に入る世帯で、8月から翌年7月までの医療と介護の自己負担を合計し、基準額を超えた分が戻る制度です。区分エの基準額は60万円です。

上の例で、医療の264,000円+252,000円=516,000円と、介護の240,000円を足すと756,000円。

基準額60万円を超えた156,000円が戻ります。実費の6万円は、合算に入りません。

この計算は、訪問診療と訪問看護の分がどちらも1か所で月21,000円以上あり、合算の対象になる前提です。訪問看護の分の数え方は、加入先に確かめましょう。

医療の516,000円は、2026年8月にできた高額療養費の年間上限(区分エは53万円)には届きません。年間上限に届く世帯で、合算とどちらを先に計算するかも、加入先に確かめましょう。

合算療養費の申請書は、加入している医療保険に出します。協会けんぽに入っている人は都道府県支部が窓口です。介護保険の自己負担額の証明を市区町村から取り寄せる手順は保険者で違います。

在宅療養の費用と医療費控除

在宅療養の費用には、確定申告の医療費控除の対象になるものと、ならないものがあります。国税庁のタックスアンサーNo.1122とNo.1127による扱いは、次の表のとおりです。

費用医療費控除
訪問診療・往診の自己負担対象(医師の診療の対価)
医療保険の訪問看護の基本利用料対象(看護師などによる療養上の世話の対価)
介護保険の訪問看護、訪問リハビリ、居宅療養管理指導対象(医療系サービス)
訪問介護(生活援助中心型を除く)、訪問入浴、通所介護など医療系サービスと併せて利用する場合だけ対象
訪問介護のうち生活援助中心型(調理・洗濯・掃除など)対象外
福祉用具のレンタル(福祉用具貸与)対象外
おむつ代医師の「おむつ使用証明書」などがある場合だけ対象

「医療系サービスと併せて利用する場合」は、1か月単位のケアプランの「サービス利用票」に医療系サービスが載っているかで判断します。

介護の事業者の領収証には、基本的に医療費控除の対象になる額が書かれることになっています。

がんの人で訪問看護が医療保険になっている場合、介護保険のケアプランに医療系サービスがない月が出ることも考えられます。その月の訪問介護などの費用が控除の対象になるかは、税務署に確かめましょう。

高額介護サービス費や合算療養費で払い戻しを受けたら、その分は医療費から差し引きます。

No.1122は「医師等の送迎費」も対象に挙げているので、訪問診療の交通費の領収書も取っておき、対象になるか迷えば税務署に聞きましょう。

控除の計算のしかたは医療費控除にまとめています。

退院して在宅療養を始めるまでの手続き

順番やること窓口
1在宅療養を希望することを主治医に伝え、訪問診療をする医療機関の紹介と、訪問看護指示書を頼む主治医、病院の相談窓口
2要介護認定を申請する(40〜64歳は申請書に「がん」と書けばよい)市区町村の介護保険の窓口、地域包括支援センター
3ケアマネジャーとケアプランを作る。訪問看護が医療保険になるかを確かめる居宅介護支援事業者
4訪問診療・訪問看護・介護の各事業者と契約し、実費の料金表をもらう各事業者
5マイナ保険証を各医療機関・訪問看護ステーションで使えるか確かめる。住民税非課税の人は減額認定証の要否を加入先に聞く各事業者、加入している医療保険

介護保険の認定は申請の日にさかのぼって効力を持つので、退院の日が決まる前から申請しておけます。手続きの流れと暫定ケアプランは40歳からのがんと介護保険で確かめましょう。

このサイトでは、訪問診療の医療機関や介護の事業所の紹介はしていません。地域の事業所は、病院の相談窓口、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター、地域包括支援センターで相談できます。

在宅療養を始める前のチェックリスト

  • 加入している医療保険と所得区分(ア〜オ)を確かめた
  • 主治医に、訪問看護が医療保険の扱いになるかを聞いた
  • 要介護認定を申請した(結果を待たずに申請日からサービスを使えるか、窓口で聞いた)
  • 訪問診療・訪問看護・介護の事業者ごとに、実費(交通費・おむつ代など)の料金表をもらった
  • ケアプランの支給限度額と、超える分の自費の見込みをケアマネジャーと確かめた
  • 医療・介護・実費の領収書を、月ごと・事業者ごとに分けて保管している
  • 8月から翌年7月までの医療と介護の自己負担の合計を記録している(合算療養費の申請に使う)
  • おむつを使うなら、主治医に「おむつ使用証明書」を頼むか、市区町村に代わりの書類を聞いた

よくある質問

末期がんの在宅療養には、月にいくらかかりますか?

医療保険の分(訪問診療・訪問看護)は高額療養費の上限まで、介護保険の分は支給限度額の内側で1割です。区分エ・要介護3で上の例なら月68,000円ほどで、1年続けば合算療養費で一部が戻ります。

実際の額は訪問の回数とサービスの量で変わります。

訪問看護は介護保険と医療保険のどちらで使いますか?

要介護認定を受けた人は原則として介護保険ですが、末期の悪性腫瘍など厚生労働大臣が定める疾病等に当たる人は医療保険になります。当たるかどうかを判断するのは主治医です。

在宅医療の費用も高額療養費の対象になりますか?

なります。訪問診療は健康保険の療養の給付で、医療保険の訪問看護の基本利用料も高額療養費の対象です。訪問の交通費などの実費は対象外です。

介護ベッドのレンタル代は医療費控除の対象ですか?

対象外です。国税庁は、介護保険の福祉用具貸与を医療費控除の対象外の居宅サービスに挙げています。

医療と介護の合算は、自動で戻ってきますか?

申請が必要です。加入している医療保険に、高額介護合算療養費の申請書を出します。医療と介護のどちらかが0円の年は支給されず、超えた額が501円以上のときに限られます。