親のがんの医療費は、親が入っている医療保険の上限で止まります。75歳以上で住民税が課税されている一般の区分なら、入院を含めて月61,500円、外来だけなら月22,000円が上限です。
同居していても、子どもが別の健康保険に入っていれば、親子の医療費は合算できません。一方、子どもが親の医療費を払い、生計を一にしていれば、医療費控除は子どもの確定申告で受けられます。
親が65歳以上なら、介護保険は病気の種類を問わず申請できます。認定には時間がかかるので、早めに市区町村へ申請しましょう。
このページの内容
最初に確かめる3つのこと
親ががんと診断されたとき、子どもが最初に知っておきたいのは「親がどの医療保険に入っていて、何歳で、所得区分はどこか」です。この3つで、医療費の上限も、使える手続きも決まります。
| 親の年齢 | 主な医療保険 | 窓口負担 | 上限の決まり方 |
|---|---|---|---|
| 75歳以上 | 後期高齢者医療(広域連合) | 1割・2割・3割 | 外来は個人ごと、入院を含めると世帯ごと |
| 70〜74歳 | 国民健康保険、または会社の健康保険 | 2割(現役並みは3割) | 同上 |
| 70歳未満 | 国民健康保険、会社の健康保険、または子どもの健康保険の被扶養者 | 3割 | 区分ア〜オの月の上限 |
手元に親の資格確認書や、広域連合・市区町村から届いた通知があれば、保険の名前と負担割合がわかります。親が話せるうちに、どこにしまってあるかを聞いておきましょう。
75歳以上の親の上限額と計算例は75歳以上のがん治療費に詳しく書いています。
親の医療費は誰が払うのか
病院の請求は、患者本人である親あてに来ます。親の年金や預金から払うのが基本ですが、子どもが代わりに払ってもかまいません。
どちらが払っても、上限額は変わりません。上限を決めるのは、払う人ではなく、患者が入っている医療保険と、その保険での所得区分です。
たとえば75歳以上・1割負担・一般の区分の親が、総医療費60万円の入院をしたとします。1割で6万円ですが、上限は61,500円なので、この月は6万円です。
翌月も入院が続き総医療費が100万円になれば、1割の10万円ではなく61,500円で止まります。
70歳未満の親が子どもの会社の健康保険の扶養に入っている場合は、少し事情が違います。被扶養者の上限を決めるのは、被保険者である子どもの所得区分です。
子どもが年収約370〜770万円(区分ウ)なら、親の入院で総医療費100万円の月の上限は、85,800円+(100万円−28万6千円)×1%=92,940円です。
なお、協会けんぽの案内では、75歳になると協会けんぽから後期高齢者医療広域連合の加入者に移ります。扶養に入れていた親も、75歳の誕生日からは親自身が後期高齢者医療の加入者です。
「同居していれば合算できる」は誤解
「親と同居しているから、親の医療費と自分の医療費を合わせて高額療養費を計算できる」と思っていませんか。合算できるのは、同じ医療保険に入っている家族どうしだけです。
75歳以上の親は後期高齢者医療、会社員の子どもは会社の健康保険で、保険が別です。同じ家に住んでいても合算はできません。別居なら、なおさらです。
合算できるのは、次のような組み合わせです。
- 後期高齢者医療に入っている父と母(70歳以上は金額にかかわらず全部合算できる)
- 子どもの健康保険の被扶養者になっている70歳未満の親と、被保険者の子ども(70歳未満の分は1つの医療機関で21,000円以上のものだけ)
両親とも後期高齢者医療なら、父の入院と母の通院の自己負担を合わせて、世帯の上限61,500円(1割・2割の一般の区分)と比べられます。
夫婦どちらも通院している家庭は、領収書を一緒に保管しておきましょう。
家族が代わりにできる手続き
入院中の親に代わって、子どもが窓口とのやりとりを引き受ける場面は多くなります。主な手続きと、家族が動くときの注意をまとめました。
| 手続き | 中身 | 家族が動くときの注意 |
|---|---|---|
| マイナ保険証・資格確認書 | マイナ保険証で受診すれば、窓口の支払いは最初から上限まで | 75歳以上は全員に資格確認書が交付されている。希望すれば限度額の区分を書いてもらえる |
| 限度額の認定証 | 住民税非課税の人は、マイナ保険証でも減額の認定証の申請を求める保険者がある | 代理で出すときの委任状の要否は、加入先に確かめる |
| 高額療養費の払い戻し | 上限を超えて払った月の分が戻る。期限は診療月の翌月1日から2年 | 東京都の広域連合の例では、初回だけ申請書が届き、2回目以降は申請不要 |
| 介護保険の申請 | 市区町村の窓口で要介護認定を申請する | 本人の状態を説明できる家族が同席すると話が早い |
高齢の親あてには、制度の改正に便乗した不審な電話も来ます。新宿区は、広域連合や市区町村が電話や訪問で口座の登録やATMの操作を求めることはないと呼びかけています。郵便物の確認も家族で分担しましょう。
医療費控除は「払った人」が申告する
「親の医療費は、親の確定申告でしか控除できない」と思っていませんか。国税庁は、自分と生計を一にする親族のために払った医療費は、実際に払った人の医療費控除の対象になるとしています。
生計を一にするとは、同じ家に住んでいることに限りません。国税庁の質疑応答事例では、同居していない母親の医療費を子どもが負担した場合も、常に生活費などの送金をしていれば対象になりうるとしています。
計算例です。会社員の子ども(課税される所得が400万円、所得税率20%)が、同居の親の医療費を1年で30万円払ったとします。保険などで戻った分がなければ、控除額は30万円−10万円=20万円です。
所得税は20万円×20%で約4万円軽くなります(別に復興特別所得税があります)。同じ医療費を親と子どもの両方で控除することはできません。
親が年金暮らしで総所得金額等が200万円未満なら、親が申告するときの足切りは10万円でなく所得の5%です。ただ、親に所得税がかかっていなければ、親の申告では戻る税がありません。
払う人と申告する人を、家族で決めておきましょう。
差し引く補てん金や対象になる費用は医療費控除のページで確かめられます。
親の介護保険:65歳以上なら原因を問わない
65歳以上の人は介護保険の第1号被保険者です。要介護状態になった原因ががんでも、ほかの病気でも、要介護認定を申請できます。
40〜64歳の親の場合は、がんが特定疾病に当たるときに限られます。法令の表現は「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したもの」です。
申請書には単に「がん」と書けば受理されます。
認定の結果は申請から原則30日以内に出て、効力は申請した日にさかのぼる決まりです。
厚生労働省は、がん等の人について、結果が出る前に暫定のケアプランでサービスを始めることが保険者の判断でできると示しています。
国立がん研究センターの遺族調査では、亡くなる前の6か月に介護保険を一度も使わなかった人のうち23.3%が「申請したが利用できなかった」と答えました。
その約半数(49.8%)は、認定の調査を受ける前に亡くなっていました。
本村ユウジの相談記録でも、介護保険に触れた相談者は3,192名のうち52名(1.6%)にとどまります。制度の名前から相談してくる人は、ほとんどいません。
親の体の動きが落ちてきたと感じたら、認定を待たずに申請だけでも済ませましょう。費用と申請の流れは介護保険のページにまとめています。
子どもが仕事を休むとき
親の通院の付き添いや入院の手続きで、子どもが仕事を休む日が増えていきます。会社員や公務員なら、育児・介護休業法の制度が使えます。
| 制度 | 日数 | お金 |
|---|---|---|
| 介護休業 | 親1人につき通算93日まで、3回に分けて取れる | 雇用保険の要件を満たせば、休業開始時の賃金日額の67%の介護休業給付 |
| 介護休暇 | 親1人なら年5日、2人以上なら年10日 | 賃金の扱いは勤務先の就業規則で確かめる |
対象は、2週間以上にわたって常に介護が必要な状態の家族です。父母のほか、配偶者の父母も含まれます。介護休業は、休業開始予定日の2週間前までに書面などでの申し出が必要です。
3回に分けられるので、診断の直後、入院や退院の前後、在宅での療養が始まるときなど、手続きが重なる時期に合わせて取ることもできます。使い方と条件は家族の介護休業・介護休暇のページで詳しく説明しています。
治療の決定に家族が関わるとき
親が高齢だったり、体力が落ちていたりすると、治療を続けるか、どこまで受けるかの話し合いに子どもが加わることがあります。どの治療を選ぶかは、親本人の病状と希望で決まることで、このサイトでは扱いません。
ただ、「子どもに迷惑をかけたくない」とお金を理由に治療を断ろうとする親もいます。そんなときは、上限額を家族で確かめ、実際にかかる額を親に示しましょう。
75歳以上の一般の区分なら、入院を含めて月61,500円が上限です。
話し合いに迷ったときは、病院のがん相談支援センターが家族からの相談も無料で受けています。
親の預金と年金の管理
銀行の預金を引き出すには、原則として預金者本人の意思の確認が必要です。親子でも、本人の代わりに自由に引き出せるわけではありません。
全国銀行協会は、来店が難しいだけなら、代理人を指名する手続きなどで本人の意思を確認できると整理しています。銀行ごとに独自の代理人の制度もあります。
親が意思を伝えられるうちに、取引銀行の手続きを確かめておきましょう。
本人が突然意識を失ったような場合について、全銀協は成年後見制度の利用を案内するのが原則としています。
そのうえで、医療費など本人のために必要なお金に限り、人道的な観点から払い出しに応じることも考えられるとしています。
その場合も、本人の口座から病院などへ直接払うのが基本で、金額や回数に上限を設けることも考えられるとしています。
応じるかどうかと手続きは銀行ごとに違うので、困ったときはまず取引銀行の窓口に相談しましょう。
親のがん保険などの給付金は、契約で指定代理請求人を決めていれば、本人が請求できないときに代理人が請求できます。指定できる人の範囲は保険会社で違うので、保険証券で確かめましょう。
もしものときの手続きは別に備える
親が亡くなったあとには、年金の停止、健康保険の資格の喪失、相続など、期限のある手続きが続きます。このサイトは闘病中のお金を扱います。亡くなったあとの手続きをまとめたのは、同じ運営者のLifeナビです。
闘病中のうちにできるのは、親の保険証券、年金の通知、通帳、印鑑のありかを家族で共有しておくことです。
子どもが確かめておくこと
- 親が入っている医療保険の名前と、負担割合(1割・2割・3割)
- 親の高額療養費の区分(現役並み・一般・住民税非課税)
- マイナ保険証を使えるか。資格確認書がどこにあるか
- 親の医療費を誰が払い、誰が医療費控除を申告するか
- 65歳以上か。介護保険の要介護認定を申請したか
- 勤め先の介護休業・介護休暇の申し出の方法
- 取引銀行の代理人の手続きと、民間保険の指定代理請求人
- 保険証券、年金の通知、通帳のしまい場所
よくある質問
親の医療費を子どもが払ったら、子どもの高額療養費になりますか?
なりません。高額療養費は、患者が入っている医療保険で、患者の分として計算されます。
子どもが窓口で払った場合でも、払い戻しは親が入っている保険から、その保険の被保険者(後期高齢者医療なら親本人)に支給されます。
別居している親の医療費も、子どもの医療費控除に入れられますか?
常に生活費や療養費を送金しているなど、生計を一にしていると言える場合は入れられます。判断に迷うときは、送金の記録をそろえて税務署に相談しましょう。
75歳以上の親を、自分の健康保険の扶養に入れられますか?
75歳になると後期高齢者医療に加入するため、子どもの健康保険の被扶養者のままではいられません。70歳未満の親を扶養に入れられるかは、収入などの要件を勤め先の健康保険に確かめましょう。
親が「介護保険はまだ早い」と言って申請を嫌がります
申請したからといって、すぐにサービスを使い始めなければならないわけではありません。認定の効力は申請日にさかのぼり、結果が出るまでに原則30日かかります。
状態が急に変わる前に、申請だけしておく方法もあります。