民間の保険会社や勤務先に出す診断書は、健康保険がきかない自費の文書です。料金は医療機関がそれぞれ決めていて、全国共通の額はありません。
同じ「医師が書く書類」でも、扱いが違うものがあります。傷病手当金の申請書の医師記入欄は保険診療で、窓口ではほかの医療費と同じ割合を払います。介護保険の主治医意見書は、本人の負担がありません。
頼む前に、提出先・様式・期限の3つを確かめれば、書き直しと二重払いを防げます。
このページの内容
用途別:診断書・意見書の種類と費用の扱い
がんの治療中に医師に頼む書類は、提出先ごとに様式が決まっています。主なものを並べると次のとおりです。
| 提出先・用途 | 書類 | 様式 | 費用の扱い |
|---|---|---|---|
| 民間の保険会社(給付金の請求) | 診断書(入院・手術証明書など) | 保険会社所定 | 自費。料金は医療機関ごと |
| 勤務先(休職・復職の手続き) | 診断書、職場復帰に関する意見書 | 勤務先の指定、または医療機関の書式 | 自費。料金は医療機関ごと |
| 健康保険(傷病手当金) | 傷病手当金支給申請書の医師記入欄(意見書) | 保険者の申請書 | 保険診療(傷病手当金意見書交付料) |
| 日本年金機構(障害年金) | 障害年金の診断書、受診状況等証明書 | 日本年金機構の所定様式 | 全国共通の額は示されていない。医療機関に確かめる |
| 市区町村(介護保険の要介護認定) | 主治医意見書 | 市区町村が主治医に直接依頼 | 申請者の負担なし |
この表のうち、本人が料金を払うものと払わないものの区別が、次の節からの話です。
民間保険・勤務先の診断書が自費になる理由
「診断書も病院で出してもらうものだから、3割負担で済む」と思っていませんか。実際は、厚生労働省の通知が、こうした文書の作成代を健康保険の外の費用として扱っています。
通知「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」は、「公的保険給付とは関係のない文書の発行に係る費用」として証明書代を挙げています。
例に挙がっているのは、産業医が主治医に依頼する職場復帰等に関する意見書と、生命保険等に必要な診断書等の作成代です。
保険がきかないので、料金は医療機関が決めます。同じ通知は、医療機関に次のことを求めています。
- 受付や待合室など見やすい場所に、内容と料金をわかりやすく掲示する
- 内容と料金を説明し、同意を確かめてから徴収する
- 他の費用と区別した、内容のわかる領収証を発行する
徴収する費用は「社会的にみて妥当適切なもの」とされています。料金は、頼む前に文書窓口か院内の掲示で確かめましょう。
この記事では料金の相場は書きません。医療機関ごとに違い、全国共通の額を示した一次資料がないためです。
傷病手当金の申請書は、保険診療で書いてもらう
会社員や公務員が休業中に受ける傷病手当金は、申請書に医師の記入欄があります。協会けんぽの申請書は4ページ構成で、4ページ目が療養担当者(医師)の記入用です。
医師が書くのは、労務不能と認めた期間、傷病名、初診日など。3ページ目は事業主が勤務状況と賃金の支払い状況を書き、1〜2ページ目は本人が書きます。
この医師記入欄の作成は、診療報酬の「傷病手当金意見書交付料」として保険診療で扱われます。窓口の支払いは、診察代などと同じ自己負担の割合(70歳未満なら原則3割)です。
厚生労働省の通知によれば、この交付料は医師が労務不能と認め証明した期間ごとに算定できるもの。
傷病手当金は1か月単位で、給与の締切日ごとに申請するよう勧められています。毎月申請すれば、医師の記入もそのたびに要るわけです。
申請書の医師記入欄を書いてもらったあとに紛失し、もう一度書いてもらうと、2度目の費用は本人の負担になります。書いてもらった申請書は、すぐにコピーを取ってから提出しましょう。
障害年金の診断書:期限のある書類
障害年金の請求には、日本年金機構の所定の様式の診断書が要ります。様式は障害の部位によって8種類あります。
がんによる全身の衰弱などに使うのは「血液・造血器・その他の障害用」です。
日本年金機構は、診断書を作成する前に必ず年金事務所などに相談するよう案内しています。どの様式を何枚使うかを先に確かめないと、書き直しになりかねません。
この診断書には「いつの状態を書くか」の期限があります。障害認定日による請求では、障害認定日から3か月以内の状態(現症)を書いたものが必要です。
障害認定日は、原則として初診日から1年6か月たった日です。初診日が2026年10月10日なら、障害認定日は2028年4月10日になります。
この場合の診断書は、2028年4月10日から3か月以内、7月10日ごろまでの状態を書いたものが要ります。
障害認定日と請求日が1年以上離れている場合は、請求日前3か月以内の状態を書いた診断書も必要です。2枚になることを前提に、病院に相談しましょう。
初診の医療機関と診断書を書く医療機関が違うときは、初診の医療機関に受診状況等証明書を書いてもらいます。病歴・就労状況等申立書は、本人や家族が書く書類です。
介護保険の主治医意見書は、本人負担なし
「介護保険の申請にも診断書代がかかる」と思っていませんか。実際は、要介護認定に使う主治医意見書は、市区町村が主治医に直接依頼します。申請者が作成料を負担することはありません。
40〜64歳の人ががんで介護保険を申請するとき、申請書の特定疾病の欄は、単に「がん」と書けば受理してよいと厚生労働省が示しています。
申請は住んでいる市区町村の窓口です。手続きの流れは介護保険のページにまとめています。
診断書の料金は、医療費控除の対象になるか
確定申告の医療費控除で、診断書の文書料を医療費に入れられるかは、迷う人が多い点です。
国税庁のタックスアンサーや質疑応答事例に、診断書の作成費用を名指しした項目は見当たりませんでした。手がかりになるのは、東京国税局の文書回答事例です。
この事例の照会文は、診断書などの文書料について次のように説明しています。
生命保険会社等へ給付金等を請求する際に使われる文書の手数料であり、診療・治療の対価に当たらず医療費控除の対象にならないと考えられる。
一方、別の病院で治療を続けるための紹介状(診療情報提供料(Ⅰ)の自己負担)は、治療を受けるために直接必要な費用として、医療費控除の対象と解されるとしています。
東京国税局は、照会の事実関係を前提とする限り、この見解で差し支えないと回答しました。
| 書類 | 医療費控除での扱い(確認できた範囲) |
|---|---|
| 民間保険の請求に使う診断書 | 文書回答事例の照会文では、対象にならないと考えられるとされている |
| 転院先に渡す紹介状(診療情報提供料(Ⅰ)) | 文書回答事例で、対象と解して差し支えないとされた |
| 傷病手当金の申請書の医師記入欄、障害年金の診断書 | 国税庁が名指しで判断した資料は見当たらない |
文書回答事例は、照会した人の事実関係を前提にした回答です。自分の場合に迷うときは、領収証を持って税務署に確かめましょう。控除の計算は医療費控除のページで解説しています。
がんの治療中は、診断書を何度も頼むことになる
がんの治療は、入院・手術・通院が続き、年をまたぐこともあります。提出先が多いうえに、同じ提出先にも何度か出す。それが一般の病気との違いです。
たとえば、保険会社2社への給付金の請求、勤務先への休職の届け、毎月の傷病手当金の申請が重なると、最初の2か月だけで書類は5通です。
民間保険の請求は、条件を満たせば診断書の代わりに領収証や診療明細書で済む会社が多くあります。請求の流れはがん保険・医療保険の請求にまとめました。
病院に頼む前に、保険会社にこの点を聞いてみましょう。それだけで、自費の診断書を減らせることがあります。
勤務先には、診断書の原本が要るのか、コピーでよいのか、決まった様式があるのかを確かめましょう。休職を延ばすときにも新しい診断書が要るかを、あわせて聞いておきましょう。
書類の作成には日数がかかり、受け取るまでの日数は医療機関によって違います。提出の期限から逆算して、早めに頼みましょう。
勤務先に出す診断書:何を書いてもらうかを先に決める
休職や復職の手続きで勤務先に出す診断書は、会社によって求める中身が違います。休業が必要な期間だけでよい会社もあれば、復職のときに働き方の制限まで書いてほしい会社もあります。
頼む前に、人事・総務に次の3つを聞き、医師に伝えましょう。
- 書いてほしい期間(例:2026年11月1日から2027年1月31日までの3か月)
- 働き方について書いてほしいこと(時間の短縮、残業・出張の制限など)の有無
- 産業医がいる会社では、主治医の意見書を産業医が見る流れになっているか
何を書けばいいかがはっきりしていれば、医師も書きやすく、書き直しも減ります。治療と仕事の両立の進め方は治療と仕事の両立支援にまとめました。
書類ごとの期限:いつまでに頼めばいいか
診断書そのものに有効期限がある書類と、請求の権利に期限がある書類があります。期限の短いものから順に頼みましょう。
| 書類を使う手続き | 期限 | 例 |
|---|---|---|
| 傷病手当金 | 休んだ日ごとに、その翌日から2年で時効 | 2026年9月1日に休んだ分は、2028年9月1日まで |
| 高額療養費の払い戻し(診断書は不要) | 診療月の翌月1日から2年 | 2026年10月の診療分は、2028年10月末まで |
| 民間保険の給付金 | 保険法で、請求できる時から3年 | 約款と保険会社で起算点を確かめる |
| 障害年金(障害認定日による請求) | 診断書は認定日から3か月以内の状態。さかのぼって受けられるのは5年分まで | 認定日が2028年4月10日なら、その年の7月10日ごろまでの状態を書いたもの |
| 医療費控除(還付申告) | 医療費を払った年の翌年1月1日から5年 | 2026年に払った分は、2031年12月31日まで |
傷病手当金の時効は2年あるので、過去の休業期間の分を後からまとめて申請することもできます。その場合も、医師は過去の期間について労務不能かどうかを書くことになります。
ただ、何か月分もまとめると、そのあいだ収入が入らないうえ、医師に書いてもらう期間も長くなるので、休んだ月の分はなるべく翌月に申請しましょう。
頼むときのチェックリスト
- 提出先(保険会社名・勤務先・保険者・年金事務所)を確かめた
- 提出先の所定の様式を手元に用意した(様式があるなら白紙の書式を病院に渡す)
- 提出の期限と、診断書に書いてもらう期間(入院期間・休業期間・現症の日付)を確かめた
- 診断書の代わりに領収証・診療明細書で足りないか、保険会社に聞いた
- 原本が要るか、コピーでよいかを提出先に確かめた
- 文書窓口か院内の掲示で、料金と受け取りまでの日数を確かめた
- 受け取った書類は、提出前にコピーを取る
- 文書料の領収証を、医療費の領収書とは分けて保管している
よくある質問
診断書の料金は、病院によってなぜ違うのですか?
民間保険や勤務先に出す診断書は健康保険の外の費用で、料金は医療機関が決めます。医療機関は内容と料金を院内に掲示し、説明して同意を得てから徴収することになっています。
1通の診断書を、保険会社と勤務先の両方に使えますか?
提出先ごとに様式や記載事項が決まっていることが多く、1通で済むとは限りません。原本が要るか、コピーでよいかを、それぞれの提出先に確かめましょう。
傷病手当金の申請書の医師の欄は、いくらかかりますか?
医師記入欄は保険診療の「傷病手当金意見書交付料」として扱われ、窓口ではほかの医療費と同じ割合で払います。額は加入している保険の自己負担割合で変わるので、病院の会計で確かめましょう。
障害年金の診断書は、いつ頼めばいいですか?
先に年金事務所で、使う様式と枚数、どの時点の状態を書いてもらうかを確かめてから頼みましょう。障害認定日による請求では、認定日から3か月以内の状態を書いた診断書が必要です。
診断書を出したのに、保険会社から追加の確認があると言われました。
保険会社は、提出された書類や診断書について、治療内容などの事実確認をすることがあります。その場合、支払いの期限は約款で定めた日数まで延びることがあります。
確認に何が必要か、いつごろ結論が出るかを保険会社に聞いておきましょう。
病院に頼んでから受け取るまで、どれくらいかかりますか?
医療機関や書類の種類によって違い、全国共通の日数はありません。依頼するときに受け取りの目安を聞き、提出の期限に間に合うか確かめましょう。