2026年4月から、働く人の治療と仕事の両立を支える取り組みが、すべての事業主の努力義務になりました。厚生労働省は「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)で進め方を示しています。

流れは、本人が会社に支援を申し出て、勤務の情報を主治医に渡し、主治医の意見書を会社に出す。それをもとに会社が本人と話し合って配慮を決める、という順番です。

短時間勤務・時差出勤・在宅勤務は、法律で決まった権利ではなく会社の制度しだいです。伝える前に、就業規則と、休んだ日の収入(傷病手当金)を確かめておきましょう。

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2026年4月から何が変わったか

改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、令和8年4月1日から、職場での治療と就業の両立支援が事業主の努力義務になりました。同法第27条の3にもとづいて定められたのが、両立支援指針です。

指針の対象は、雇用形態にかかわらずすべての労働者です。正社員だけでなく、パートや契約社員も含まれます。

病気は、医師が反復・継続した治療が必要と判断し、仕事を続けるうえで配慮が必要なものが対象です。がんは、その代表として指針の参考資料に詳しい留意事項が載っています。

参考資料によると、がんの治療のために仕事を持ちながら通院している人は約49.9万人と推計されています。新たにがんと診断される人のうち24.1%は、20〜64歳の働く世代です。

努力義務で変わること、変わらないこと

「法律で、会社は配慮しなければならなくなった」と思っていませんか。実際は努力義務で、短時間勤務や在宅勤務を用意することまでは求められていません。

指針は、会社が実情に応じてそうした制度を導入することが「望ましい」と書いています。何が使えるかは、会社ごとの就業規則で決まります。

項目指針での扱い
時間単位の年次有給休暇労使協定を結べば1時間単位で取れる(年5日の範囲内)
傷病休暇・病気休暇会社が自主的に設ける法定外の休暇。条件や賃金の有無は会社ごとに違う
時差出勤・短時間勤務会社が自主的に設ける勤務制度
在宅勤務・試し出勤会社の実情に応じて導入が望まれる制度の例
就業の禁止病気になったことだけで安易に就業を禁止せず、配置転換や作業時間の短縮などで働く機会を失わせないよう留意する

会社に制度がなくても、支援を申し出ることはできます。指針は、事業主が一方的に判断せず、本人と十分に話し合うよう求めています。

両立支援の進め方:勤務情報提供書と主治医意見書

指針と様式例にそった進め方は次のとおりです。様式は厚生労働省のページから、PDF・Word・Excelで入手できます。

順番誰がすること使う様式例
0本人会社に支援を申し出る(配慮を求める意思表示)—
1本人(会社が作成を手伝う)仕事の内容や勤務の状況を主治医に伝える勤務情報提供書、両立支援カード(本人記載欄)
2本人主治医から、症状・治療の状況・仕事を続けられるか・必要な配慮についての意見をもらい、会社に出す主治医意見書、両立支援カード(医師記載欄)
3会社産業医などの意見を聴き、本人と話し合って、仕事を続けるか・どんな配慮をするかを決める—
4会社と本人配慮の中身と時期を計画にし、治療の経過に合わせて見直す両立支援プラン/職場復帰支援プラン

休職から戻るときは、職場復帰の可否について主治医の意見を求める様式例を使います。最終的に決めるのは会社ですが、主治医の意見書と本人との話し合いが前提になっています。

産業医がいない会社でも進め方は同じです。指針は、従業員50人未満の事業場で健康管理を行う医師も「産業医等」に含めています。

勤務情報提供書に書くこと

主治医は、仕事の中身を知らないと、現実的な意見を書けません。指針の様式例には、次のような欄があります。

  • 職種と、仕事の内容(立ち作業、車の運転、対人業務、出張など)
  • 勤務の形態と時間(日勤だけか、交替勤務か、残業や休日出勤の状況)
  • 通勤の方法と時間(公共交通機関で座れるか、自動車か)
  • 休業できる期間と、その間の給与の有無・傷病手当金
  • 年次有給休暇の残りの日数
  • 会社で使える制度(時間単位の年休、傷病休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、試し出勤)

指針は、仕事をするうえで最低限必要な作業や条件、会社としてどこまで配慮できるかを具体的に書くよう勧めています。主治医が現実に合った意見を出しやすくなるからです。

主治医の意見書の作成料は、保険がきかない自費の文書料になることがあります。料金は医療機関が院内に掲示しているので、頼む前に窓口で確かめましょう。

診断書の費用の考え方は診断書の費用と取り方で説明しています。

両立支援プランに入れる中身

会社が仕事を続けられると判断したら、必要に応じて配慮の中身と予定を計画にまとめます。指針が盛り込むよう勧めているのは、次の3つです。

項目中身の例
1. 治療の状況と予定今後の治療と通院の予定
2. 仕事の上での配慮と時期就業場所の変更、業務内容の変更、労働時間の短縮、通院時間の確保などと、その期間
3. 見直しの方法人事や産業保健スタッフとの面談の時期

治療が終わってすぐ元どおりに働けるとは限らない、という点にも留意するよう指針は書いています。だから計画には、見直す時期まで入れておくのが大事です。

休職から戻るとき

休職から戻るときは、会社が職場復帰支援プランを作ることが望ましいとされています。中身は両立支援プランと同じで、職場に戻る日も書き込みます。

勤務時間や日数を短くして慣らす試し出勤は、指針が例に挙げる制度の一つです。これも会社が自主的に設ける制度なので、あるかどうかを人事に確かめましょう。

復帰の時期は、主治医の意見、本人の希望、戻る職場の意見を合わせて判断されます。復帰前に面談の場を設けてもらい、通院の予定を共有しておくと、その後の調整が楽になります。

会社に伝える前に決めておくこと

指針は、両立支援は本人の申し出から始まるのが基本だとしています。病気は私傷病なので、どこまで伝えるかも含めて、本人の判断から始まります。

症状や治療の状況は機微な健康情報です。会社は健康診断で把握した場合を除き、原則として本人の同意なく取得してはならない、と指針に書かれています。

伝えた情報を誰が扱うのか、上司や同僚にどこまで知らせるのかを、申し出るときに確かめましょう。

伝え方のチェックリスト

  • 誰に最初に伝えるか(直属の上司、人事、産業医・保健師)
  • 伝える範囲(病名まで伝えるか、治療の予定と必要な配慮だけにするか)
  • 治療の予定(入院の時期と日数、通院の頻度と曜日。主治医に聞いた範囲で)
  • 休む見込み(連続して休む期間、通院で抜ける時間)
  • 仕事で配慮してほしいこと(残業、出張、重い物を持つ作業、通勤の時間帯など)
  • 就業規則の休職制度・病気休暇・時間単位の年休・短時間勤務の有無
  • 休んだ日の給与の扱いと、傷病手当金の申請の段取り
  • 情報を扱う人の範囲と、同僚への説明をどうするか
  • 次に話し合う時期(治療の段階が変わるとき)

治療の内容をどう選ぶかは、主治医と決めることです。このサイトでは治療の判断には触れません。会社に伝えるのは、治療の結果として仕事に出る影響と、必要な配慮です。

休んだ日の収入:傷病手当金を組み合わせる

「通院のたびに有給休暇を使い切ったら、あとは欠勤するしかない」。そう考える前に、健康保険の傷病手当金を確かめましょう。

会社員が入る健康保険や公務員の共済組合には、仕事に就けない日の収入を補う給付があります。

協会けんぽの場合、1日の額は直近12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3です。平均が26万円なら、26万円÷30=8,666.6…円が10円未満の四捨五入で8,670円、×2/3で5,780円です。

支給が始まるのは、連続3日の待期のあと4日目から。給与が出た日は出ません(給与が傷病手当金より少なければ差額が出ます)。

厚生労働省のQ&Aの例では、待期は最初の1回だけです。その後に同じ病気で仕事に就けなかった日は、初日から支給日数に数えられています。

支給期間は通算1年6か月なので、出勤した日はその分だけ期間が残ります。治療と仕事を行き来するがんの働き方に合った仕組みです。

休み方その日の収入注意
年次有給休暇(時間単位を含む)給与が出る時間単位は労使協定がある会社で年5日まで
会社の病気休暇・傷病休暇会社の規定による有給か無給か、日数の上限を就業規則で確かめる
欠勤(無給)給与は出ない仕事に就けない日なら傷病手当金の対象になりうる(待期のあと)
休職会社の規定による給与が出なければ、在籍のまま傷病手当金を受け取れる

計算の細かい決まりと申請書の書き方は傷病手当金(がんの場合)にまとめています。公務員は病気休暇と共済組合の仕組みが違うので、公務員ががんになったらを見てください。

がんの治療と仕事でつまずきやすいところ

  • 治療の予定が変わる:検査の結果で入院の時期や通院の間隔が変わり、最初に伝えた予定とずれる。両立支援プランは見直す前提で作る
  • 通院の日が続く:通院で治療を受けながら働く人が増えており、半日・時間単位で抜けられるかが続けやすさを分ける
  • 見た目で分かりにくい:だるさや体力の低下は周りから見えにくく、配慮が途切れやすい
  • 家計への影響が遅れて来る:高額療養費で医療費は月の上限で止まるが、休んで給与が減る影響は数か月後に表れる

医療費の月の上限は高額療養費で計算できます。仕事を辞めるかどうかで迷っているなら、退職日で受け取れるお金が変わる点を仕事を辞める前に確認することで先に確かめましょう。

相談できる窓口

窓口できること費用
都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)両立支援の専門スタッフ(社労士・心理職・保健師など)が、会社と本人の間の調整や両立支援プランの作成を手伝う無料
がん相談支援センターがん診療連携拠点病院などにあり、仕事やお金のことを相談できる。その病院に通っていない人も利用できる無料・匿名可
ハローワークの長期療養者の専門相談員がんなどで離職・転職が必要になった人の就職支援。病院への出張相談もある無料
会社の人事・産業医・保健師就業規則の制度、両立支援プランの作成—

このほか指針は、労災病院に併設する治療就労両立支援センターや、保健所の保健師、社会保険労務士も支援の関係者に挙げています。

監修者・本村ユウジの相談記録を単語で数えると、2010〜2026年の相談者3,192名のうち、休職・退職・復職など仕事に触れた人は310名でした。

お金の話題の中で最も多く、治療費の額に触れた244名を上回っています。

辞めるかどうかを一人で決める前に、ここに挙げた窓口のどれか一つに話してみましょう。

よくある質問

会社に病気を伝える義務はありますか?

指針は、両立支援は本人からの申し出をきっかけに始めるのが基本だとしています。会社は健康情報を、健康診断の場合を除いて本人の同意なく取得してはならないとされています。

指針の考え方では、伝えるかどうか、どこまで伝えるかは本人の判断が出発点です。

ただ、配慮を受けるには、必要な範囲の情報を伝えることが前提になります。

パートや契約社員でも両立支援を受けられますか?

指針は、雇用形態にかかわらずすべての労働者を対象にしています。使える休暇や勤務制度は雇用形態で違うことがあるので、就業規則や雇用契約書を確かめましょう。

主治医が意見書を書いてくれないときは?

様式例を持参し、仕事の内容を具体的に書いた勤務情報提供書を添えて頼みましょう。病院のがん相談支援センターに、頼み方を相談することもできます。作成料は医療機関ごとに決まっています。

申し出たら、仕事を外されたり部署を変えられたりしませんか?

指針は、病気になったことだけで安易に就業を禁止しないよう求めています。配置転換や作業時間の短縮は、働く機会を失わせないための手段という位置づけです。

配慮の中身は、本人の希望や要望を聴き、十分に話し合って本人の了解を得るよう努めることになっています。決める前に、自分の希望を伝える場があるか確かめましょう。

短時間勤務の制度がない会社では何ができますか?

制度がなくても、残業の免除、通院日の調整、業務の分担の見直しなど、個別の配慮を話し合うことはできます。会社との話し合いが難しいときは、さんぽセンターが調整を支援しています。