手術の自己負担は、手術の種類ではなく「総医療費」と「所得区分」で決まります。請求書の合計点数に10円をかけると総医療費(10割)になり、その3割と月の上限の低いほうが窓口の支払いです。
年収約370〜770万円(区分ウ)の人が、手術の月の総医療費150万円なら、3割の45万円ではなく97,940円。
総医療費300万円でも112,940円です。ただし手術前の検査や入院が別の月にかかると、上限はその月ごとにかかります。
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請求書の「点数」を総医療費に直す
保険診療の値段は、診療報酬の「点数」で決まっています。厚生労働省の告示が定める1点の単価は10円です。
入院や手術の請求書(領収書)には、入院料、手術、麻酔、検査などの項目ごとに点数が並び、合計点数が書かれています。この合計点数に10円をかけた額が、健康保険が使われる前の医療費の総額です。
| 段階 | 計算 | 例(合計150,000点) |
|---|---|---|
| 1. 総医療費(10割) | 合計点数×10円 | 1,500,000円 |
| 2. 3割負担(上限がない場合) | 総医療費×0.3 | 450,000円 |
| 3. 月の上限(区分ウ) | 85,800円+(総医療費−286,000円)×1% | 97,940円 |
| 4. 窓口の支払い | 2と3の低いほう | 97,940円 |
| 5. 高額療養費 | 2−4(窓口で上限までにしていなければ、あとで戻る額) | 352,060円 |
食事代は点数ではなく円で書かれ、この計算の外にあります。差額ベッド代などの保険外の費用も、点数の合計には入りません。
「手術費用が数百万円と書かれていたら、その額を払うのか」。請求書や見積もりの大きな数字は、多くの場合この総医療費です。窓口の支払いは、ここから2段階で小さくなります。
総医療費50万・150万・300万円の窓口負担
2026年8月診療分からの上限で、同じ月・同じ病院の入院に手術の費用がすべて収まった場合を計算します。70歳未満で3割負担の人が対象です。
| 区分(年収の目安) | 総医療費50万円(50,000点) | 150万円(150,000点) | 300万円(300,000点) |
|---|---|---|---|
| 3割負担 | 150,000円 | 450,000円 | 900,000円 |
| ア(約1,160万円〜) | 150,000円 | 276,290円 | 291,290円 |
| イ(約770〜1,160万円) | 150,000円 | 188,130円 | 203,130円 |
| ウ(約370〜770万円) | 87,940円 | 97,940円 | 112,940円 |
| エ(〜約370万円) | 61,500円 | 61,500円 | 61,500円 |
| オ(住民税非課税) | 36,900円 | 36,900円 | 36,900円 |
区分アの150万円は、270,300円+(1,500,000円−901,000円)×1%=276,290円。
区分イは179,100円+(1,500,000円−597,000円)×1%=188,130円です。
区分アとイで総医療費50万円の月は、3割の15万円が上限より低いので、15万円をそのまま払います。高額療養費は出ません。
区分ウで50万円から300万円に増えても、支払いの差は25,000円です。上限の式の「1%」の部分しか増えないからです。
ここが見落としやすい点です。上限は手術1回ごとではなく、月ごと・医療機関ごと・入院と外来別にかかります。
自分の区分と月ごとの総医療費を入れて計算したいときは、高額療養費の計算ツールを使いましょう。
手術前の検査・入院が同じ月か別の月かで変わる
がんの手術では、手術の前に外来で検査を重ね、入院してから手術、術後の回復を待って退院、という流れが多くなります。この流れのどこで月が切り替わるかで、自己負担の合計が変わります。
例1:入院が月をまたぐ
区分ウの人が、総医療費150万円の入院・手術を受けたとします。すべてが7月に収まれば97,940円です。
7月25日に入院して8月8日に退院し、総医療費が7月90万円・8月60万円に分かれたとします。
7月は85,800円+6,140円=91,940円、8月は85,800円+3,140円=88,940円で、合計180,880円。同じ月に収まった場合より82,940円多くなります。
例2:手術前の外来検査が前の月
手術前の検査は、多くの場合、外来で受けます。外来の分は、入院の分とは別に計算されます。
6月の外来検査の総医療費が8万円なら、3割の24,000円は区分ウの上限に届かず、そのまま払います。7月の入院・手術の上限とは足せません。
同じ7月に外来検査があった場合でも、外来の分が21,000円以上なら入院の分と合算できます。21,000円未満なら合算できません(70歳未満の場合)。
例3:退院後の外来通院
退院した月に外来で受診した分も、入院とは別に数えます。退院後の通院が続くときの費用は退院後・通院中の治療費にまとめています。
日程は治療の都合で決まります。費用の見積もりでは、入院と手術がどの月にかかる予定かを病院に確かめ、月ごとに上限を当てはめましょう。
手術の月と前後の月で高額療養費が3か月以上出ると、4か月目からは多数回該当で上限が下がります。区分ウ・エは44,400円です。
国民健康保険の人、70歳以上の人
「国民健康保険だと手術費用の上限が違うのでは」と思っていませんか。70歳未満の上限額の表は、国民健康保険も会社員の健康保険も同じです。違うのは区分の決め方です。
| 加入している保険 | 区分の決め方 | 区分の確かめ方 |
|---|---|---|
| 協会けんぽ・健康保険組合・共済組合 | 被保険者の標準報酬月額 | 加入先に問い合わせる |
| 国民健康保険 | 所得(旧ただし書き所得) | 市区町村の国民健康保険の窓口に問い合わせる |
国民健康保険の高額療養費の貸付や、窓口の支払いを上限までにする受領委任払いは、市区町村によって有無と条件が違います。手術の前に、住んでいる市区町村に確かめましょう。
国民健康保険の保険料の負担が重いときは国保の保険料の減免も読みましょう。
70歳以上の人は、窓口の負担割合と上限額の表が70歳未満と別です。高齢者のがん治療費で確かめましょう。
民間のがん保険や医療保険に入っていない人も、公的医療保険の上限は同じように使えます。「保険なし」で心配になるのは、上限の外にある食事代や差額ベッド代、収入の減少の部分です。
手術給付金と医療費控除
民間の保険の手術給付金が出るかどうか、いくら出るかは、契約の約款で決まります。どの手術が対象になるかも約款に書かれているので、手術の前に保険会社へ確かめましょう。
手術の年に医療費控除を申告するときは、給付金の扱いに注意が必要です。国税庁の通達は、医療費の補塡を目的として受け取る医療保険金や入院費給付金などを、支払った医療費から差し引くとしています。
手術給付金を名指しした国税庁の記述は、タックスアンサーや質疑応答事例には見当たりません。基準は「医療費の補塡を目的とするか」です。約款で給付の目的を確かめ、迷ったら税務署に聞きましょう。
差し引くときの計算例
区分ウで、手術の入院の自己負担97,940円と食事代を払い、高額療養費は窓口で上限までにしてあったとします。
同じ年の別の通院の自己負担が12万円、入院給付金と手術給付金を合わせて15万円受け取ったとします。
給付金は、その給付の目的となった入院・手術の医療費を限度に差し引きます。食事代を14日分23,100円とすると、手術の入院の医療費は121,040円。
給付金15万円のうち差し引くのは121,040円までで、残りを通院の12万円から引く必要はありません。
控除額は(121,040円+120,000円−121,040円)−100,000円=20,000円です。総所得金額等が200万円未満の人は、10万円の代わりに総所得金額等の5%を引きます。
確定申告までに給付金の額が決まっていなければ、見込額で差し引き、あとで違っていたら修正申告か更正の請求で直します。詳しくは医療費控除を読みましょう。
手術のあとも治療が続くときの1年の見通し
がんでは、手術のあとに追加の治療や定期的な通院が続くことがあります。手術の月だけでなく、その後の月も含めて見ておくと、1年の支払いの見通しが立ちます。
区分ウの人が8月に手術(総医療費150万円)を受け、9月と10月の総医療費が各40万円、11月から翌年7月までの9か月も毎月上限に届いたとします。
| 月 | 上限 | 自己負担 |
|---|---|---|
| 8月(手術) | 通常の上限 | 97,940円 |
| 9月・10月 | 通常の上限 | 86,940円×2=173,880円 |
| 11月〜翌年7月 | 多数回該当(4か月目から) | 44,400円×9=399,600円 |
| 12か月の合計 | 年間上限53万円 | 671,420円→530,000円 |
月ごとの上限だけで数えると671,420円ですが、2026年8月からの年間上限で53万円になり、141,420円があとから戻ります。協会けんぽでは、年間上限の申請の受付は2027年8月からです。
年間上限は8月から翌年7月までで区切ります。手術が2月なら、最初の6か月と残りの期間は別の12か月に入ります。
退職などで加入する健康保険が変わると、多数回該当の回数は数え直しになります。手術の前後で仕事をどうするか迷う人はがんで仕事を辞める前にを先に読みましょう。
窓口で3割を払ってしまったとき
マイナ保険証も限度額適用認定証も使わずに手術を受けると、窓口では3割を払います。総医療費150万円なら45万円です。
上限との差額は、加入先に「高額療養費支給申請書」を出すと戻ります。申請できるのは、診療月の翌月1日から2年以内です。
払い戻しまでのつなぎに、協会けんぽには支給見込額の8割を無利子で借りられる高額医療費貸付があります。申請には、保険点数がわかる医療費の請求書が必要です。
健康保険組合と共済組合の貸付は、組合ごとに有無と条件が違います。加入先に聞きましょう。
認定証が手術の月の途中で届いた場合は、同じ月のうちに病院に出せば、その月の分は病院で精算してもらえることがあります。翌月以降に出しても前の月には使えず、申請で取り戻すことになります。
手術の前に確かめること
- 加入している健康保険と、自分の所得区分(ア〜オ)
- マイナ保険証の利用登録。使わないなら限度額適用認定証を入院前に申請する
- 入院と手術がどの月にかかる予定か(月をまたぐか)
- 手術前の検査を外来で受ける日程と、その月
- 見積もりの額が総医療費(10割)か、窓口の支払いの目安か
- 個室を使うか。使うなら差額の料金と同意書の内容
- 民間保険の手術給付金・入院給付金の対象になるかと、請求に必要な書類
- 領収書を月ごと・入院と外来別に保管する
入院中の食事代や差額ベッド代、テレビ代などの自費の扱いはがんの入院費用で説明しています。
よくある質問
がんの手術費用は、高額療養費でいくらになりますか?
同じ月・同じ病院の入院に収まれば、区分ウで総医療費50万円なら87,940円、150万円なら97,940円、300万円なら112,940円です。
区分エは61,500円、区分オは36,900円で、総医療費にかかわらず同じです。
国民健康保険でも手術の自己負担は同じですか?
70歳未満の上限額の表は同じです。区分は所得(旧ただし書き所得)で決まるので、市区町村の窓口で自分の区分を確かめましょう。
民間の保険に入っていなくても、高額療養費は使えますか?
使えます。高額療養費は公的医療保険の制度で、民間保険の加入とは関係ありません。民間保険の給付金は、上限の外の費用や収入の減少に充てるものと考えると整理できます。
見積もりで「手術費用150万円」と言われました。用意するのはいくらですか?
150万円が総医療費なら、区分ウで同じ月に収まる場合は97,940円に食事代と自費が加わります。月をまたぐ場合は2か月分の上限がかかるので、病院に予定を確かめましょう。
手術給付金は医療費控除で差し引きますか?
国税庁は、医療費の補塡を目的とする給付金を差し引くとしています。手術給付金を名指しした記述はないので、約款で目的を確かめ、迷ったら税務署に聞きましょう。