自営業・フリーランスの人が入る国民健康保険には、原則として傷病手当金がありません。治療で仕事を休んだ日の収入を、公的な保険で補う仕組みはない、ということです。

そのかわりに使えるのは、「出ていくお金を減らす制度」と「借りる制度」。医療費は月の上限で止まり、年収約370万円までなら月61,500円です。

国民年金保険料(月17,920円)は免除を申請でき、全額免除なら年215,040円の支払いがなくなります。国保の保険料、国税にも、減免や猶予の手続きがあります。

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会社員と自営業で違うところ

同じがんの治療でも、加入している保険で使える制度が変わります。違いが大きいのは、休んだ日の収入の補い方と、障害年金の範囲です。

項目会社員(協会けんぽ・健康保険組合)自営業・フリーランス(国民健康保険)
休んだ日の給付傷病手当金(標準報酬月額の平均÷30×2/3、通算1年6か月)原則なし。国保組合などで独自にある場合は加入先に確かめる
医療費の月の上限高額療養費(標準報酬月額で区分)高額療養費(前年の所得で区分)
年金の保険料厚生年金(給与から天引き)国民年金 月17,920円(令和8年度)。免除・納付猶予の申請ができる
健康保険料標準報酬月額で決まる前年の所得と世帯の人数で決まる。軽減・減免がある
障害年金障害基礎年金+障害厚生年金(1〜3級)障害基礎年金だけ(1級・2級)。3級はない

国保の傷病手当金は、国民健康保険法第58条第2項で「行うことができる」とされた任意の給付です。行うかどうかは市区町村の条例、国保組合の規約で決まります。

業種ごとの国民健康保険組合に入っている人は、組合の規約に傷病手当金があるかを確かめましょう。

収入が途切れたときに使う順番

「休めば収入がゼロになるから、治療より仕事を優先するしかない」。そう考える前に、出ていくお金をどこまで減らせるかを順に確かめましょう。手続きの順番は次のとおりです。

時期すること窓口
診断・入院の前マイナ保険証を使えるようにする。使えなければ限度額適用認定証を申請する市区町村の国保の窓口(国保組合は組合)
休業が決まったら国民年金保険料の免除・納付猶予を申請する市区町村の国民年金の窓口・年金事務所
同じ時期国保の保険料の軽減・減免、分けて納める相談市区町村の国保の窓口
納税の時期が近いとき国税の納税の猶予を申請する。住民税・個人事業税は自治体に相談所轄の税務署(徴収担当)・市区町村・都道府県税事務所
入院・手術・通院が始まったら民間の保険の給付金を請求する。小規模企業共済の加入者は貸付けを確かめる保険会社・中小企業基盤整備機構
それでも生活費が足りないとき生活福祉資金、生活保護の相談市区町村の社会福祉協議会・福祉事務所
初診日から1年6か月障害年金の請求を検討する市区町村の国民年金の窓口・年金事務所

上から順に全部を使う必要はありません。ただ、上のほうの手続きほど申請しないと始まらず、さかのぼりにも限りがあります。休業が決まった月のうちに、年金と国保の窓口へ行っておくと安心です。

医療費:国保にも月の上限がある

「自営業だから、医療費は3割をそのまま払い続ける」と思っていませんか。実際は、国民健康保険にも高額療養費があり、ひと月の自己負担には上限があります。

2026年8月診療分からの70歳未満の上限は次のとおりです。国保では、前年の所得(旧ただし書き所得)で区分が決まります。

区分年収の目安月の上限4か月目から年間上限
ウ約370〜770万円85,800円+(総医療費−286,000円)×1%44,400円53万円
エ〜約370万円61,500円44,400円53万円
オ住民税非課税36,900円24,600円29万円

区分ウの人が入院して、ひと月の総医療費が100万円かかった場合です。85,800円+(100万円−28万6千円)×1%=92,940円が、その月の自己負担の上限になります。

区分の境目の所得は、市区町村の国保の窓口で確かめましょう。区分ア・イを含む全体の表は高額療養費のページに載せています。

マイナ保険証を使える医療機関なら、窓口での支払いが最初から上限までになります。マイナ保険証がない人は、限度額適用認定証を先に申請しておきましょう。

手続きは限度額適用認定証とマイナ保険証にまとめています。

窓口の支払いそのものを減らす制度

国民健康保険法第44条には、特別の理由があり窓口の負担(一部負担金)を払うのが難しい人に、市区町村が減額・免除・徴収猶予をできる規定があります。

これも「できる」規定なので、どんな場合に認めるかは市区町村が決めています。病気で事業収入が大きく減った場合が対象になるかは、国保の窓口で聞きましょう。

国民年金保険料:未納にせず免除を申請する

国民年金の保険料は令和8年度で月17,920円、12か月で215,040円です。収入が減ったら、免除か納付猶予を申請しましょう。

単身の人の全額免除の基準は、前年所得が(0人+1)×35万円+32万円=67万円以下です。扶養する家族が1人いれば、2×35万円+32万円=102万円以下になります。

ここで、がんの治療中の自営業の人ならではのずれが出ます。審査に使うのは前年の所得なので、診断された年は、前年に普通に稼いでいた分で基準を超えやすいのです。

病気で事業を廃止・休止して届出をした人は、前年所得にかかわらず審査される「失業等による特例免除」の対象になりえます。税務署への廃業等の届出書の写しなどが必要です。

未納と免除で、障害年金が変わる

ここは特に見落としやすい点です。日本年金機構は、病気が発生してからさかのぼって免除を申請しても、障害基礎年金の保険料納付要件には算入されないと明記しています。

障害年金は、初診日の前日の時点で保険料の要件を満たしているかで決まります。初診日の前に未納の月が続いていると、あとから免除を申請しても埋まりません。

反対に、初診日より前に承認された免除の期間は、保険料を納めた期間と同じように数えられます。収入が不安定な時期は、未納のままにせず免除を申請しておくことが、そのまま障害年金への備えになります。

所得の基準の細かい計算、さかのぼれる期間(2年1か月)、追納は国民年金保険料の免除・納付猶予にまとめました。

国保の保険料:前年の所得で来る請求に備える

国民健康保険の保険料(税)も、前年の所得と世帯の人数で計算されます。休業した年に、元気だった前年の所得で計算された請求が届く。治療の1年目が、保険料の負担が一番重く感じる時期です。

所得が一定以下の世帯は、均等割・平等割が7割・5割・2割減る法定の軽減があります。これとは別の仕組みが、国民健康保険法第77条にもとづく市区町村ごとの減免と、徴収の猶予です。

減免の要件と割合は条例で決まり、自治体により異なります。払えないと分かった時点で滞納する前に窓口へ行き、減免の対象になるか、分けて納められるかを聞きましょう。

詳しくは国保の保険料の軽減・減免にまとめています。

税金:納税の猶予を申請できる

所得税や消費税などの国税には、本人や家族が病気にかかったことで一度に納められないときの「納税の猶予」があります。所轄の税務署長に申請します。

項目内容(国税庁 No.9206)
対象になる事情納税者や家族が病気にかかったり負傷したことなどで、一時に納付できないと認められる
猶予の期間原則1年以内。やむを得ない理由があれば延長でき、当初と合わせて2年まで
納め方原則として、猶予期間中に毎月分けて納める
延滞税猶予期間中は免除または軽減される
担保原則必要。猶予額が100万円以下、猶予期間が3か月以内などなら不要

相談先は税務署の徴収担当です。住民税と個人事業税は地方税なので、猶予や減免の扱いは市区町村・都道府県で違います。納付書が届いたら、期限の前に問い合わせましょう。

確定申告では、医療費控除も忘れずに入れましょう。年間の医療費から保険の補てん分を引き、10万円(総所得金額等が200万円未満なら5%)を超えた分が控除になります。詳しくは医療費控除で説明しています。

障害年金:国民年金だけの人は1級・2級

がんによる障害も、障害年金の対象になります。ただ、初診日に国民年金だけに加入していた人が受けられるのは障害基礎年金で、等級は1級と2級だけです。

等級障害基礎年金(令和8年度・年額)月あたり
1級1,059,125円88,260円
2級847,300円70,608円
子の加算2人目まで1人243,800円、3人目から1人81,300円—

障害厚生年金の3級に当たる程度の障害では、国民年金だけの人は対象になりません。人工肛門を造設した場合の認定基準は3級なので、この点は特に影響が大きくなります。

会社員だった時期に初めて受診し、その後に独立した人は、初診日が厚生年金の期間にあれば障害厚生年金の対象です。初診日がいつ、どの制度の期間にあるかを、年金事務所で確かめましょう。

請求できるのは、原則として初診日から1年6か月たった日(障害認定日)からです。等級に当たるかは日本年金機構が決めます。

このサイトでは判定しません。認定基準と書類は障害年金(がんの場合)にまとめています。

借りる制度:小規模企業共済と生活福祉資金

小規模企業共済に入っている人

中小企業基盤整備機構の小規模企業共済の加入者は、病気やけがで入院したときに「傷病災害時貸付け」を申し込めます。

  • 要件:5日以上入院(退院後の通院を含めて5日間)したことを、診断書で証明できる
  • 申込期限:入院した日から6か月以内。疾病・負傷による借入れは、事前に中小機構への借入申込みが必要
  • 限度額:掛金の範囲内(掛金納付月数により7〜9割)で、50万円以上1,000万円以内(5万円単位)
  • 利率:年0.9%(一般貸付けは年1.5%)
  • 返済:500万円以下は36か月、505万円以上は60か月。6か月ごとの元金均等割賦償還

加入していない人は使えません。共済金の受け取りや解約の扱いは、中小機構に確かめましょう。

生活福祉資金(社会福祉協議会)

市町村民税非課税程度の低所得世帯などは、住んでいる市区町村の社会福祉協議会で生活福祉資金を相談できます。緊急小口資金は10万円以内・無利子・保証人不要です。

療養中の生計のための福祉費、生活再建までの生活費の総合支援資金もあります。貸付なので、返せる見込みも審査で考慮されます。

使い方はがんの治療費が払えない・お金がないときで、生活保護の医療扶助とあわせて説明しました。

民間の保険:何に入っているかを並べる

公的な給付で休業中の収入を補えない以上、民間の保険の比重は会社員より大きくなります。

入院・手術・通院の給付金、がんと診断されたときの一時金、働けないときの収入を補う保険など、加入している契約を書き出しましょう。

請求には診断書が要ることが多く、診断書の費用は保険がききません。複数の契約があるなら、1通で済むかを保険会社に先に聞きましょう。

請求の流れと時効(3年)はがん保険の請求で説明しています。このサイトでは保険の商品は紹介しません。

自営業のがんで起きやすいこと

  • 休業の決断が遅れる:休んだ日の給付がないため、仕事を詰めたまま治療を始め、手続きが後回しになる
  • 前年所得のずれ:診断された年の保険料・税・年金の審査は前年の所得で決まり、収入が減った実感と合わない
  • 家族の負担が重なる:家族が事業を手伝っている場合、家族の収入も同時に減る
  • 治療が年単位で続く:抗がん剤の通院が数か月以上続くと、高額療養費の多数回該当(4か月目から44,400円など)と年間上限がかかるようになる

多数回該当の回数は同じ保険者で数えます。会社員から独立して国保に移った人は、移った時点で回数が数え直しになります。

窓口に行く前のチェックリスト

  • 加入しているのは市区町村の国保か、国保組合か(組合なら傷病手当金の有無を確認)
  • マイナ保険証を使えるか。使えなければ限度額適用認定証の申請
  • 前年の所得の額(確定申告書の控え)と、今年の見込み
  • 国民年金保険料の未納の月がないか(ねんきんネット・年金事務所で確認)
  • 国民年金の免除・納付猶予の申請書(市区町村の窓口・年金事務所・郵送・電子申請)
  • 事業を廃止・休止した場合は、税務署への届出書の写し(特例免除に使う)
  • 国保の保険料の納付書と、減免・分納の相談の予約
  • 国税の納付書。猶予を申請するなら医師の診断書や医療費の領収書
  • 民間の保険の証券の一覧と、小規模企業共済の加入状況
  • 初診日(最初に受診した医療機関と日付)のメモ

相談できる窓口

  • がん相談支援センター:がん診療連携拠点病院などにあり、患者・家族なら無料・匿名で、お金や仕事のことも相談できる。その病院に通っていない人も使える
  • 市区町村の国保・国民年金の窓口:保険料の軽減・減免、免除・納付猶予の申請
  • 年金事務所:未納の確認、初診日と障害年金の相談
  • 税務署の徴収担当:納税の猶予
  • 社会福祉協議会・福祉事務所:生活福祉資金、生活保護

よくある質問

国民健康保険組合に入っています。傷病手当金はありますか?

組合の規約しだいです。国民健康保険法第58条第2項で、国保組合は規約の定めにより傷病手当金を支給できるとされています。支給の条件と額は組合ごとに違うので、組合の窓口か規約で確かめましょう。

会社員の配偶者の扶養に入っているフリーランスです。何が使えますか?

被扶養者には傷病手当金がありません。医療費は配偶者の健康保険の高額療養費で上限がかかり、上限の区分は配偶者(被保険者)の所得で決まります。

国民年金が第3号被保険者なら保険料を自分で納めていないので、免除の申請は要りません。

病気で事業を休むと、確定申告はどうなりますか?

事業の収入が減っても、確定申告の仕組みは変わりません。医療費控除を入れると、所得税が戻ることがあります。

無収入でも住民税の申告をしておくと、国保の法定の軽減の判定に所得が使われます。申告が必要かは市区町村に確かめましょう。

廃業したほうが制度は使いやすくなりますか?

廃業・休止の届出をすると、国民年金の特例免除の対象になりえます。その一方で、事業を再開するときの手続きや、取引先との関係が変わります。

制度のために廃業を決めるのではなく、免除・減免・猶予で足りるかを先に確かめましょう。迷ったら、がん相談支援センターや税務署・年金事務所で、両方の場合を聞いてから決めるのが安全です。