本人や同じ家計の家族が病気になったことは、国税でも地方税でも、法律に書かれた「納税の猶予」の理由です(国税通則法第46条、地方税法第15条)。

一度に払えない分は、申請すれば原則1年以内、延長しても合わせて2年までの範囲で、月ごとに分けて納められます。

病気を理由に猶予が認められると、猶予期間の延滞税(地方税は延滞金)は全額免除です。何もせず滞納すると、令和8年の割合で年2.8%、納期限から2か月(地方税は1か月)を過ぎると年9.1%がかかります。

猶予は払う時期を延ばす制度で、税額は減りません。住民税や固定資産税を減らす「減免」は、市区町村の条例で決まり、基準も割合も自治体により異なります。

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税金の種類ごとの窓口と制度

最初に、払えない税金がどこの税金かを分けましょう。窓口も、猶予や減免の根拠になる条文も違うからです。

税金窓口猶予減免
所得税(確定申告・予定納税)税務署の徴収担当国税通則法第46条、国税徴収法第151条の2減免の制度はない。予定納税は減額申請
住民税(市町村民税・道府県民税)市区町村の税務課・納税課地方税法第15条第323条にもとづく市区町村の条例
固定資産税・軽自動車税市区町村地方税法第15条第367条・第456条にもとづく条例
自動車税・個人事業税都道府県税事務所地方税法第15条第164条・第72条の62にもとづく都道府県の条例
国民健康保険税市区町村の国保の窓口地方税法第15条条例。国保の軽減・減免で説明

市町村民税が減免されると、同じ割合で道府県民税も減免されたものとみなされます(地方税法第45条)。住民税の相談は、市区町村の窓口だけで済みます。

国民年金保険料は税金ではありませんが、同じ時期に払えなくなる人が多い支払いです。国民年金保険料の免除・納付猶予を並行して申請しましょう。

がんの治療中に住民税が重く感じる理由

「収入がないのだから、住民税はかからない」と思っていませんか。実際は、住民税はその年の1月1日に住んでいる市区町村が、前の年の所得をもとに課税します(地方税法第318条)。

働いていた年の所得にかかる税を、休職や退職で収入が減った年に払うことになります。がんの治療は月単位でなく年単位で続くため、このずれが家計に直接響きます。

計算例:前年の課税所得が300万円だった人

住民税の所得割は、標準税率で市町村民税6%と道府県民税4%、合わせて10%です(地方税法第314条の3・第35条)。

前年の課税総所得金額が300万円なら、所得割は300万円×10%=30万円が目安です。ここに均等割が加わり、税額控除で減る場合もあります。

会社を辞めて自分で納める普通徴収になると、納期は原則として6月・8月・10月・1月の4回です(第320条)。1回あたり約7万5千円になります。

在職のまま休職して給与が止まったときの住民税の払い方は、休職中の社会保険料で説明しています。

一方、健康保険の傷病手当金は非課税です。休んでいる年に傷病手当金だけで暮らした人は、翌年度の住民税の所得割が大きく下がります。重いのは、診断を受けた翌年度の1年分であることが多いのです。

非課税の給付金の扱いは保険の給付金と税金で説明しています。

国税の「納税の猶予」:病気は条文に書かれた理由

国税通則法第46条第2項は、猶予の理由の一つに「納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと」を挙げています。本人だけでなく、同じ家計の家族のがんも対象です。

その事実のために一時に納付できないと認められる金額を限度に、税務署長が猶予します。判断するのは税務署で、材料は収支と財産の状況です。

項目国税庁・条文の内容
期間1年以内。財産や収支の状況から、最も早く完納できると認められる期間に限る
納め方原則として、猶予期間中の各月に分けて納付する
延長やむを得ない理由があり、当初の期間が終わる前に申請すれば、当初と合わせて2年まで
担保原則必要。猶予額100万円以下、猶予期間3か月以内、担保にできる財産がない、のいずれかなら不要
延滞税病気による猶予では、猶予期間に対応する分を全額免除(国税通則法第63条第1項)
申請先所轄の税務署長

第46条第2項の条文には、申請の期限が書かれていません。災害の猶予(第1項)は災害がやんでから2か月以内と決まっているのと違う点です。

ただ、猶予が認められる前の期間には延滞税がかかります。納期限が近づいた段階で税務署の徴収担当に電話し、申請の時期を確かめましょう。

申請書と添付書類

  • 納税の猶予申請書
  • 財産収支状況書(猶予額が100万円を超えるときは、財産目録と収支の明細書)
  • 病気の事実を証する書類。国税庁の通達は、例として「診断書、医療費の領収書」を挙げている
  • 担保が必要なときは、担保の提供に関する書類
  • 通帳、給与明細、傷病手当金の支給決定通知など、収入と支出がわかるもの

通達は、病気による入院などで添付書類を出すのが難しい場合の扱いも定めています。入院中で書類がそろわないときは、その事情を先に伝えましょう。

診断書は医療機関によって費用がかかります。医療費の領収書で足りるかを先に聞けば、文書料を抑えられる場合があります。

「換価の猶予」との違い

病気でなくても、一度に払うと生活の維持が難しくなるときは「換価の猶予」を申請できます(国税徴収法第151条の2)。納期限から6か月以内の申請が条件です。

猶予を申請する税金のほかに滞納している国税があると、換価の猶予は使えません。延滞税の扱いも、納税の猶予より不利です。

比較納税の猶予(病気)換価の猶予(申請)何もしない
理由本人・家族の病気、負傷一時に払うと事業や生活の維持が難しいなし
申請の期限条文に定めなし納期限から6か月以内なし
期間1年以内(延長で最長2年)1年以内(延長で最長2年)なし
延滞税猶予期間分は全額免除猶予期間分は年1.3%に軽減(令和8年)年2.8%、2か月後から年9.1%
差押え猶予期間中は新たにされない差押えた財産の換価(売却)が猶予される督促状から10日を過ぎるとされうる

換価の猶予の1.3%は、租税特別措置法第94条第2項の「猶予特例基準割合」です。令和8年は平均貸付割合0.8%に0.5%を加えた年1.3%になります。

延滞税はいくら違うか(計算例)

令和7年分の所得税の確定申告で、納める税額が30万円あったとします。法定納期限は令和8年3月16日です。この30万円を9月15日に払った場合で比べます。

延滞税は、本税×割合×日数÷365で計算します。令和8年の割合は、納期限の翌日から2か月を経過する日まで年2.8%、それ以後は年9.1%です。

期間日数割合延滞税
3月17日〜5月16日61日年2.8%300,000円×2.8%×61÷365=1,403円
5月17日〜9月15日122日年9.1%300,000円×9.1%×122÷365=9,125円
合計183日10,528円→100円未満を切り捨てて10,500円

同じ183日がすべて猶予期間だったとすると、次のように変わります。猶予期間がいつから始まるかは、申請の時期をもとに税務署が決めます。

扱い延滞税
何もせず滞納した10,500円
換価の猶予(年1.3%)300,000円×1.3%×183÷365=1,955円→1,900円
病気による納税の猶予0円

実際には猶予中は毎月分けて納めるため、残高が減るにつれて延滞税も小さくなります。差がはっきり開くのは、2か月を過ぎて年9.1%になってからです。

延滞税の計算のもとになる税額は1万円未満を切り捨て、延滞税が1,000円未満ならかかりません(国税通則法第118条・第119条)。

所得税:予定納税の減額と、確定申告の納税

自営業などで前年の所得税が多かった人に届くのが、予定納税の通知です。予定納税基準額が15万円以上の人が対象で、7月と11月にそれぞれ3分の1を納めます。

治療で休業して今年の所得が大きく減りそうなら、予定納税額の減額申請ができます。国税庁が対象に挙げるのは、休業や業況不振で所得が著しく減る見込みのとき、医療費控除などの控除が前年より大きくなるときです。

減額申請見積もりの基準日提出期限
第1期分と第2期分6月30日7月15日
第2期分だけ10月31日11月1日〜11月15日

期限が土日祝日なら、その翌日が期限です。所轄の税務署に書面かe-Taxで出します。

会社員だった人が年の途中で退職し、年末調整を受けていないなら、源泉徴収された所得税が納め過ぎになっていることがあります。還付申告の期限は、翌年1月1日から5年間です。

医療費が多かった年は、医療費控除で所得税が戻り、翌年度の住民税も下がります。払えないと悩む前に、戻るお金がないかを先に確かめましょう。

地方税:徴収猶予と延滞金

住民税、固定資産税、自動車税なども、地方税法第15条で同じ形の猶予があります。「納税者…又はこれらの者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したとき」が理由の一つです。

期間は1年以内で、延長しても合わせて2年まで。病気による徴収猶予なら、猶予期間の延滞金は全額免除です(地方税法第15条の9)。

国税と違うのは、申請書類、担保が要らない場合、分割の決め方を地方団体の条例で定める点です。申請による換価の猶予の申請期限も、条例で定める期間になっています。

地方税の延滞金は、区切りが「1か月」です。令和8年は、納期限の翌日から1か月までが年2.8%、それ以後が年9.1%です。

計算例:住民税の第1期分6万円を半年遅れたとき

納期限が6月30日の市で、第1期分60,000円を12月31日に払ったとします(納期限は市区町村の条例で決まります)。

期間日数割合延滞金
7月1日〜7月31日31日年2.8%60,000円×2.8%×31÷365=142円
8月1日〜12月31日153日年9.1%60,000円×9.1%×153÷365=2,288円
合計184日2,430円→100円未満を切り捨てて2,400円

名古屋市の案内では、未納の税額は1,000円未満を切り捨て、延滞金が1,000円未満なら納めなくてよいとしています。第2期以降も遅れると、期ごとに同じ計算が重なります。

住民税などの減免:条例で決まる

「猶予を受ければ税金そのものが減る」と思っていませんか。猶予で消えるのは延滞税・延滞金で、本税は残ります。税額そのものを減らすのは「減免」です。

地方税法第323条は、市町村長が「天災その他特別の事情がある場合」や「貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者」などに限り、条例の定めるところにより市町村民税を減免できるとしています。

固定資産税(第367条)、軽自動車税(第456条)も同じ形です。

つまり、病気で収入が減った人を減免の対象にするか、どこまで減らすかは、市区町村ごとに違います。全国共通の基準はありません。

例:鹿児島市は、前年の合計所得金額が400万円以下で、廃業・休業・失業・疾病・負傷などのために今年の所得見込額が前年の10分の5以下に減り、納税が著しく困難な人を減免の対象にしています。

定年退職、雇用期間満了、自己都合の退職は除きます。全額減免になるとは限らず、原則として納期限までの申請が必要です。

この例は鹿児島市のものです。自分の市区町村の基準は、税務課のページか窓口で確かめましょう。減免の申請は納期限までとする自治体があるため、納付書が届いたらすぐ聞くのが安全です。

滞納するとどうなるか

相談せずに滞納すると、法律で決まった順に手続きが進みます。

段階国税市町村民税
納期限の翌日延滞税が始まる延滞金が始まる
督促原則として納期限から50日以内に督促状納期限後20日以内に督促状
差押え督促状を発した日から10日を過ぎても完納しないと、財産を差し押さえる同じく10日を過ぎると差し押さえる

給料が差し押さえられる場合も、所得税・住民税・社会保険料に当たる額と、生活扶助の基準をもとに政令で決める額などは差し押さえられません(国税徴収法第76条)。

財産がない、差押えで生活が著しく苦しくなるおそれがある、といった場合は、税務署長が滞納処分の執行を停止できます(第153条)。停止が3年続くと、その国税を納める義務はなくなります。

ただし、停止するかどうかは税務署が決めることで、申請して受ける制度とは違います。滞納の前に猶予を申請するほうが、延滞税の面でも有利です。

がんの治療中だからこそ気をつけたいこと

  • 猶予は最長2年です。治療が長引いたり再発したりして2年で納めきれない見込みなら、延長の申請の時点で収支の見通しを正直に出し、残りの扱いを相談しましょう
  • 入院や通院で窓口に行けない時期があります。税務署も市区町村も、まず電話で相談できます。家族が代わりに行くときは、委任状が要るかを先に聞いておきましょう
  • 本人でなく、同じ家計の家族ががんになった場合も、国税・地方税とも猶予の理由に入ります
  • 住民税が重いのは診断の翌年度が多く、その翌年度は傷病手当金が非課税のため下がりやすい、という時間差があります。1年ごとの見通しを立てて相談しましょう

税金だけでなく、ローンやカードの支払いも重なっているなら、借金・ローンの返済を、生活費そのものが足りないならお金がないときの順番を合わせて読みましょう。

相談の順番と窓口

順番すること窓口
1手元の納付書・通知書を税金の種類ごとに分け、納期限と額を書き出す自分で
2所得税・消費税など国税の相談所轄の税務署の徴収担当
3住民税・固定資産税・軽自動車税・国保税の相談。減免の基準も聞く市区町村の税務課・納税課
4自動車税・個人事業税の相談都道府県税事務所
5指示された申請書と書類を出し、分割の額と期限を決める各窓口

どの窓口でも、納期限より前に連絡したほうが選べる方法が多く残ります。払えないと分かった時点で、まず電話をかけましょう。

窓口に行く前のチェックリスト

  • 払えない税金の種類、年度、期別、額、納期限を一覧にした
  • 病気の事実がわかる書類(診断書、医療費の領収書)を用意した。入院中で出せないなら、そう伝える
  • 毎月の収入(給与、傷病手当金、年金など)と支出がわかる通帳や明細をそろえた
  • 預貯金や保険の解約返戻金など、財産の一覧を書いた
  • 猶予額が100万円を超えるか、猶予期間が3か月を超えるか(担保の要否に関わる)を確かめた
  • ほかに滞納している税金がないかを確かめた
  • 住民税の減免の基準と申請期限を、市区町村に聞いた
  • 医療費控除や還付申告で戻る税金がないかを確かめた

よくある質問

がんで休職中です。住民税は免除されますか?

病気だけを理由に全国一律で免除になる制度はありません。減免は市区町村の条例で決まり、基準も割合も違います。

払う時期を延ばす徴収猶予は、地方税法第15条で全国共通です。住んでいる市区町村の税務課に聞きましょう。

家族ががんで、看病のために働けません。猶予の対象になりますか?

国税通則法第46条と地方税法第15条は、納税者と生計を一にする親族の病気も猶予の理由に挙げています。そのために一時に払えないと認められるかは、税務署や市区町村が収支を見て判断します。

すでに督促状が届いています。今からでも猶予を申請できますか?

納税の猶予の条文(第46条第2項)に申請期限はありません。換価の猶予は納期限から6か月以内です。督促状から10日を過ぎると差押えの対象になるため、届いたらすぐ税務署か市区町村に連絡しましょう。

猶予を受けると、医療機関や勤務先に知られますか?

猶予の申請は本人と税務署・市区町村のあいだの手続きです。病気の証明に診断書を使う場合は医療機関に文書を頼みますが、医療費の領収書で足りるかを先に聞けます。

延滞金の割合は毎年変わりますか?

変わります。延滞税・延滞金の割合は、前年に告示される平均貸付割合をもとに年ごとに決まります。このページの年2.8%・年9.1%・年1.3%は令和8年(2026年)の値です。