先進医療を受けたときに全額自己負担になるのは、「先進医療に係る費用」(技術料)の部分だけです。同じ入院・通院の中の診察、検査、投薬、入院料などは通常の保険診療として扱われ、窓口では3割などの一部負担金を払います。この一部負担金には高額療養費の上限がかかります。厚生労働省の例(総医療費100万円、うち技術料20万円)で計算すると、年収約370〜770万円の人の自己負担は合計290,940円です。このページは費用と制度上の扱いだけを説明し、先進医療を受けるべきかどうかには触れません。
先進医療とは:技術と医療機関を国が決めている
先進医療は、まだ保険診療として認められていない技術のうち、国が「将来的な保険導入に向けた評価」をするために、保険診療との併用を認めたものです。健康保険の制度上は「評価療養」の1つに位置づけられています。2026年10月現在で71種類あります。
技術の名前だけでは、先進医療にはなりません。厚生労働省は技術ごとに施設基準を決めていて、その基準を満たした保険医療機関が届出をすると、はじめて保険診療と併用できます。個別の技術が先進医療として認められるには、国の先進医療会議で安全性や有効性などの審査を受ける必要があります。
| 区分 | 中身 | 対象になる人 |
|---|---|---|
| 先進医療A | 未承認・適応外の医薬品や医療機器を使わない技術など | 先進医療会議が審査した実施計画の対象の患者 |
| 先進医療B | 未承認・適応外の医薬品や医療機器を使う技術など | 同上(国が個別に認めた医療機関で行う) |
どの技術が対象で、どの医療機関が実施しているかは、厚生労働省が先進医療の技術と実施医療機関の一覧で公表しています。技術ごとに対象となる病気や条件も決められています。このサイトでは、特定の技術や医療機関の名前、費用の相場は扱いません。
「先進医療という名前の治療なら、どこで受けても技術料以外は保険がきく」と考えていませんか。届出をしていない医療機関では、保険診療との併用そのものが認められていません。その場合は、保険診療と保険外の診療を一緒に受けたことになり、原則として保険がきく部分まで全額自己負担になります。この「混合診療」の扱いは自由診療を勧められたらのページで詳しく説明しています。
費用の仕組み:全額自己負担は技術料の部分だけ
厚生労働省は、先進医療を受けたときの費用を2つに分けて説明しています。1つは「先進医療に係る費用」で、患者が全額を負担します。もう1つは、通常の治療と共通する部分です。こちらは一般の保険診療と同じで、加入している健康保険の一部負担金を払います。
| 費用の部分 | 払い方 | 高額療養費 |
|---|---|---|
| 先進医療に係る費用(技術料) | 全額自己負担。額は医療の種類や病院で異なる | 対象外 |
| 診察・検査・投薬・入院料など通常の治療と共通する部分 | 保険給付。3割などの一部負担金を払う | 対象 |
| 入院中の食事代 | 1食550円(一般の人・2026年6月から) | 対象外 |
厚生労働省の例では、総医療費が100万円、そのうち技術料が20万円です。技術料の20万円は、患者がそのまま払う部分です。残りの80万円は保険給付の対象で、7割の56万円を健康保険が負担し、3割の24万円が患者の一部負担金になります。厚生労働省は、この一部負担金に高額療養費制度が適用されると明記しています。
「先進医療を受けたら、その月の入院費は全部自費になる」と心配する人は少なくありません。実際に全額を払うのは技術料だけです。入院料や検査代は、先進医療を受けない月と同じルールで計算されます。
計算例:所得区分で自己負担はいくら変わるか
同じ厚生労働省の例を、70歳未満の所得区分ごとに計算します。上限額は2026年8月診療分からの値です。80万円の部分の窓口負担24万円に、区分ごとの月の上限をかけます。
| 所得区分 | 技術料 | 保険部分の自己負担(高額療養費の適用後) | 合計 |
|---|---|---|---|
| ア(年収約1,160万円〜) | 200,000円 | 240,000円(上限270,300円に届かない) | 440,000円 |
| イ(年収約770〜1,160万円) | 200,000円 | 181,130円 | 381,130円 |
| ウ(年収約370〜770万円) | 200,000円 | 90,940円 | 290,940円 |
| エ(〜年収約370万円) | 200,000円 | 61,500円 | 261,500円 |
| オ(住民税非課税) | 200,000円 | 36,900円 | 236,900円 |
区分ウの計算はこうなります。85,800円+(80万円−28万6千円)×1%=90,940円。窓口負担の24万円との差、149,060円が高額療養費として戻る分です。区分イは179,100円+(80万円−59万7千円)×1%=181,130円。区分アは月の上限が270,300円なので、24万円の窓口負担はそのまま自己負担として残ります。
区分ウの合計290,940円のうち、技術料が約7割を占めます。保険部分の負担は上限で止まりますが、技術料には上限がありません。技術料が20万円でなく50万円なら、合計もそのまま30万円増えます。
保険診療の部分は、月ごとに総医療費が変わります。入院した月と通院だけの月で負担がどう変わるかは、高額療養費の計算ツールに保険診療の部分の総医療費を入れて試算しましょう。技術料はツールに入れず、別に足しましょう。
オンライン資格確認を導入している医療機関でマイナ保険証を使えば、保険部分の窓口負担は最初から上限額までになります。技術料は上限の外なので、窓口で全額を払います。表の金額は厚生労働省の例をもとにした計算で、実際の技術料は医療機関から書面で確かめましょう。
がんの治療で見落としやすい費用の数え方
がんの治療は数か月から年単位で続くことがあり、先進医療を受ける月と、保険診療だけの月が混ざることもあります。治療全体の費用を見積もるときは、技術料の数え方に注意が必要です。
- 技術料は高額療養費の対象外なので、月の上限、2026年8月に新設された年間上限(区分ウ・エで53万円)、多数回該当の計算のどれにも入らない
- 多数回該当は、直近12か月に高額療養費の支給が3か月以上あると4か月目から上限が下がる仕組み。回数を数えるのは保険部分だけ
- 高額療養費は医療機関ごと、入院と外来別に計算する。先進医療をいつもの病院とは別の医療機関で受けた場合、そちらの保険部分は別に計算される
- 70歳未満は、1つの医療機関でひと月21,000円以上の自己負担があるものだけを合算できる
- 入院中の食事代(1食550円)は、30日入院で3食なら49,500円。これも高額療養費の対象外
先進医療を実施している医療機関は限られているため、自宅から遠い病院に通うこともあります。通院の交通費は健康保険の給付の対象外です。歩けない人が通院するための交通費も、健康保険の移送費には当たりません。交通費を医療費控除に入れられるかどうかは、このページの後半で説明します。
技術料は医療機関ごとに違う:受ける前に書面で確かめる
先進医療に係る費用は医療の種類や病院によって異なる、というのが厚生労働省の説明です。同じ技術でも、医療機関が違えば技術料が違うことがあります。先進医療を扱う医療機関には決まりがあり、院内の見やすい場所に内容と費用を掲示し、事前に治療内容や負担金額を説明して同意を得ることになっています。患者は説明を受けて納得したうえで、同意書に署名する流れです。
先進医療は、患者が希望し、医師がその必要性と合理性を認めた場合に行われます。費用の確認は、同意の前提です。受診のときは、ふだんの保険診療と同じくマイナ保険証か資格確認書を使います。
- 技術料の見積もりを書面でもらったか(1回分か、一連の治療の総額か)
- 技術料のほかに、入院・検査・通院の保険診療部分がどのくらいかかる見込みか
- 受ける医療機関が、その技術の実施医療機関として厚生労働省の一覧に載っているか
- 技術料をいつ、どの方法で払うか(入院中か退院時か、分割の可否)
- 費用ごとの金額が分かる領収書が出るか
- 主治医の病院と別の医療機関で受ける場合、通院の回数と交通費・宿泊費の見込み
- 加入している民間保険の先進医療特約が使えるか、上限はいくらか
見積もりがそろったら、技術料、保険部分の自己負担、食事代、交通費を1枚の紙に並べて合計しましょう。保険部分は上限で止まりますが、それ以外は全部そのまま積み上がります。
民間保険の先進医療特約
医療保険やがん保険に、先進医療の技術料を対象にした特約を付けている人がいます。給付があるかどうか、いくらまで出るかは、保険会社ごと・契約ごとに約款で決まります。同じ「先進医療特約」という名前でも、中身が同じとは限りません。
受ける前に、約款を読み、保険会社に次の点を問い合わせましょう。
- 受ける予定の技術と医療機関で、給付の対象になるか
- 1回あたり・通算の上限額はいくらか
- 給付を請求するときに要る書類(診断書や領収書など)は何か
- 給付を受け取る前に、医療機関への支払いが必要か
特約がない人や、上限を超える人は、技術料を自分で用意することになります。高額療養費の対象外である点は、特約の有無にかかわらず同じです。
医療費控除での扱い
医療費控除は、保険がきくかどうかではなく、医師による診療や治療の対価かどうかで対象を判断します。国税庁の基準では、病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額が対象です。厚生労働省も、先進医療を受けたときの領収書は、医療費控除を受ける場合に必要になるので大切に保管するよう案内しています。
区分ウの例で計算してみましょう。1年間に払った医療費が、技術料20万円と保険部分の自己負担90,940円の合計290,940円だけだったとします。控除額は290,940円−10万円=190,940円です。課税される所得金額が330万円以上695万円未満で所得税率20%の人なら、所得税は190,940円×20%=38,188円軽くなる計算です(復興特別所得税は除く)。払った290,940円が戻るわけではありません。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 差し引く金額 | 高額療養費、医療費の補てんを目的とした保険金など。その目的の医療費の額が限度 |
| 差し引かない金額 | 傷病手当金、働けなくなったことなどを理由に受け取る保険金、見舞金など |
| 足切り | 10万円。総所得金額等が200万円未満の人は、その5% |
| 申告の期限 | 還付申告は、翌年1月1日から5年間 |
民間保険から受け取った給付が、医療費の補てんを目的とするものなら、その医療費から差し引きます。先進医療特約の給付金について、国税庁が名指しで判断を示したページは確認できませんでした。給付の目的を約款で確かめ、迷う場合は税務署に問い合わせましょう。
国税庁は、保険適用外の特別の料金はマイナポータル連携の医療費通知情報に含まれないと案内しています。技術料も保険外の支払いなので、領収書から医療費控除の明細書に書き込む準備をしておきましょう。領収書は、確定申告期限などから5年間、提示や提出を求められることがあります。
遠方の医療機関への旅費は、近くの病院で治療を受けられる場合は対象外です。その遠くの病院でしか治療を受けられない相当の理由があれば、原則として対象です。電車やバスが使える場合のタクシー代や、自家用車のガソリン代・駐車場代は含まれません。細かい決まりは医療費控除のページにまとめています。
先進医療は保険適用に移ることがある
先進医療は、将来の保険導入に向けて評価を受けている途中の技術です。実施している医療機関は、毎年1回の定期報告などで実施状況を国に報告します。その報告をもとに、保険に入れる必要があるか、先進医療として続けるかを国の先進医療会議が検討する仕組みです。最終的には、診療報酬改定のときに中央社会保険医療協議会で検討され、次の3つのどれかになります。
- 保険収載(保険診療になる)
- 先進医療として継続
- 先進医療の告示から取消し
保険収載された技術は通常の保険診療に変わり、高額療養費の対象です。反対に、告示から取り消された技術は、保険診療との併用ができなくなります。厚生労働省は、告示から削除された先進医療Bの一覧も公表しています。いつ、どの技術が移るかは改定ごとに決まり、前もって分かるものではありません。費用の見通しは、受ける時点の扱いで立てましょう。
受けるかどうかは、費用と治療の位置づけを分けて考える
本サイトの監修者・本村ユウジが2010〜2026年に受けた相談を数えると、3,192名のうち207名が、自由診療や先進医療の費用に触れていました。先進医療の話が出たときは、費用の心配と、受けるかどうかの迷いが同時に来ます。
このページで確かめられるのは、全額自己負担になる範囲、高額療養費と医療費控除での扱い、特約の確かめ方までです。先進医療は、実施計画で対象とする患者が決められている医療でもあります。費用の見通しとは分けて、その先進医療が今の治療計画のなかでどういう位置づけなのか、自分が対象に当たるのかを、主治医に確かめましょう。
よくある質問
先進医療の技術料に高額療養費は使えますか?
使えません。技術料は全額自己負担で、高額療養費の対象外です。同じ入院の診察・検査・投薬・入院料などの一部負担金には、高額療養費の上限がかかります。
先進医療を受けると、入院料も全額自費になりますか?
なりません。届出をした医療機関で先進医療として受ける場合、通常の治療と共通する部分は保険診療と同じ扱いです。ただし、届出のない医療機関で保険診療と一緒に受けると、原則として全額自己負担になります。
技術料はどこで調べられますか?
技術料は医療の種類や病院によって異なるため、受ける医療機関に見積もりを書面で出してもらいましょう。対象の技術と実施医療機関は、厚生労働省の一覧で確かめられます。
先進医療の費用は医療費控除の対象になりますか?
診療や治療の対価として払った技術料は、医療費控除の対象になりえます。費用ごとの金額が書かれた領収書を保管し、医療費控除の明細書に書き込みましょう。先進医療特約の給付金を受け取った場合は、差し引くかどうかを給付の目的で確かめましょう。
費用の相談はどこでできますか?
がん診療連携拠点病院などにあるがん相談支援センターでは、治療費や生活費の相談を無料で受けられます。先進医療特約については、加入している保険会社に問い合わせましょう。