がんで会社を辞めた人も、働けるようになれば雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)を受け取れます。支給が始まるのは、ハローワークで求職の申込みをして7日の待期が過ぎてからです。
病気のために前の仕事を続けられなかったとハローワークが判断すれば「特定理由離職者」となり、自己都合退職の給付制限(2025年4月から原則1か月)はかかりません。
受け取れる日数は、病気で辞めた人も一般の離職者と同じ90〜150日が基本です。45歳で被保険者期間15年、月給27万円なら日額6,013円×120日=721,560円が目安です。
このページの内容
このページで扱うこと
療養している間は基本手当を受け取れず、受給期間の延長を申請しておくことが前提になります。
延長のしくみと、離職日以前2年間に被保険者期間12か月以上という受給の条件は、がんで仕事を辞める前に確認することと受給期間の延長で説明しています。
ここで扱うのは、その先の話です。働けるようになってからの手続きの順番、離職理由の判定、何日分・いくら受け取れるか、受給中にまた体調を崩したとき、再就職したときの手当です。
働けるようになってからの手続きの順番
受給期間の延長をしていた人は、働ける状態になったら、住所地を管轄するハローワークへ速やかに行きます。厚生労働省のQ&Aでは、次の書類を持参するよう案内しています。
- 離職票-1と離職票-2(複数の会社の離職票があれば全部)
- マイナンバーカード(ない人は通知カードなどの個人番号確認書類と、運転免許証などの身元確認書類)
- 写真2枚(縦3.0cm×横2.4cm。手続きのたびにマイナンバーカードを出すなら省略できる)
- 本人名義の預金通帳かキャッシュカード
- 受給期間延長通知書(延長を申請したときにハローワークから渡された書類)
- 延長の理由がやんだことを確認できる書類
- 身体障害者手帳などを持っている人は、その手帳
「延長の理由がやんだことを確認できる書類」に何を使うかは、ハローワークに前もって電話で確かめておくと二度手間になりません。
| 順番 | ハローワークですること | 受け取るもの・決まること |
|---|---|---|
| 1. 受給資格の決定 | 求職の申込みをして、離職票を出す。このとき離職理由も判定される | 受給資格の決定、「雇用保険受給資格者のしおり」、説明会の日時 |
| 2. 待期 | 受給資格の決定から、失業の状態が通算7日たつまで待つ | この7日間は支給されない |
| 3. 受給説明会 | 指定された日時に出席する(待期のあとになることもある) | 雇用保険受給資格者証、失業認定申告書、第1回の失業認定日 |
| 4. 給付制限(ある人だけ) | 正当な理由のない自己都合と判定された人は、待期のあと原則1か月支給されない | 病気による特定理由離職者には、かからない |
| 5. 失業の認定 | 原則4週間に1回の認定日に、求職活動の実績を書いた申告書を出す | 認定を受けた日数分が支給の対象になる |
| 6. 振込み | なし | 認定日から通常5営業日ほどで指定口座に入る |
雇用保険の手続きの窓口は、平日の8時30分から17時15分までです。求職の申込みにも時間がかかるため、ハローワークは16時前に来るよう勧めています。
認定日までの求職活動の実績は、原則として2回以上必要です(最初の認定日までは1回)。求人への応募、ハローワークの職業相談、セミナーの受講などが当たります。
求人をネットで見ただけ、知人に頼んだだけでは実績になりません。
延長していても、期限は動いている
延長で後ろにずれた受給期間にも、最後の日があります。その日を過ぎると、給付日数が残っていても受け取れません。
働けるようになってから手続きが遅れると、待期や給付制限の間にも期限は進みます。受給期間延長通知書に書かれた満了日を確かめ、働ける状態になったら早めに動きましょう。
病気で辞めた人の離職理由:特定理由離職者とは
「病気で辞めたのだから、会社都合と同じ扱いになる」と思っていませんか。実際は、病気による退職は会社都合(特定受給資格者)ではなく、「正当な理由のある自己都合」の一つとして扱われます。
ハローワークの特定理由離職者の範囲には、「体力の不足、心身の障害、疾病、負傷」などによって離職した人が挙げられています。
判断するのはハローワーク
がんで辞めた人が、全員これに当たるわけではありません。
厚生労働省の業務取扱要領は、どの程度の身体の状態が正当な退職の理由になるかは、本人の状態と、就いていた仕事との関係などの具体的な事情で個々に決めるとしています。
基準になるのは、病気などのために、それまでの仕事(通勤を含む)を続けるのが不可能か困難になったことです。会社から別の仕事を命じられ、その仕事ならできる場合は含まれません。
判定は、受給資格の決定のときにハローワークが行います。会社が主張する離職理由と本人が主張する離職理由を聞き、それぞれを裏付ける資料で事実を確かめたうえで決める、と厚生労働省は説明しています。
確かめられる書類
- 離職票-2の離職理由欄(会社が書いた理由と、自分の事情が合っているか)
- 主治医の意見書や診断書(離職した時点で、前の仕事を続けるのが困難だったか)
- 休職の記録、会社とのやりとりなど、病気で仕事を続けられなかった経緯がわかるもの
主治医の意見書の様式を用意しているハローワークもあります。
たとえばハローワーク浜松の様式では、離職日の時点で前の業務を続けることが「可能」だったか「困難」だったか、いつから週20時間以上の仕事ができるかを医師が書く形です。
同じ様式の注意書きには、医師が書いた「働ける日」が離職日当日やそれより前だと、病気による退職に当たらず給付制限がかかる場合がある、とあります。
辞めた時点では働けず、今は働ける。この2つを書類で示す形です。
意見書や診断書の文書料は、保険がきかない自費になることがあります。考え方は診断書の費用と取り方にまとめています。
離職票の理由が実際と違うときは、受給の手続きのときに担当者へ伝え、証明できる書類を持参しましょう。ハローワークが本人と会社の両方の主張を確かめて決めます。
特定理由離職者になると何が変わるか
病気による特定理由離職者と判定されると、変わるのは主に2つです。給付日数は増えません。ここが一番誤解されやすいところです。
| 項目 | 正当な理由のない自己都合 | 病気による特定理由離職者 |
|---|---|---|
| 給付制限 | 待期7日のあと原則1か月(5年以内に3回目の自己都合退職なら3か月) | なし |
| 受給に必要な被保険者期間 | 離職日以前2年間に通算12か月以上 | 離職日以前1年間に通算6か月以上でもよい |
| 所定給付日数 | 90日・120日・150日(被保険者期間で決まる) | 同じ(90日・120日・150日) |
| 国民健康保険料の軽減 | 対象外 | 対象(離職日に65歳未満。届出が必要) |
特定受給資格者と同じ手厚い日数になる特定理由離職者は、有期の労働契約が更新されなかった人(2027年3月31日までに離職した人の暫定措置)です。病気で辞めた人はこちらに入りません。
給付制限は2025年4月1日以降に離職した人から原則1か月に短くなりました。それより前は原則2か月でした。古い情報を見て「2か月待つ」と思い込まないようにしましょう。
国保の保険料の軽減は、受給資格者証の離職理由のコードで確かめます。中身は国民健康保険料の軽減・減免で説明しています。
何日分もらえるか:所定給付日数の表
受け取れる日数の上限(所定給付日数)は、離職日の年齢、雇用保険の被保険者であった期間、離職理由で決まります。前の会社の加入期間も、一定の条件で通算できます。
一般の離職者(病気による特定理由離職者を含む)
| 被保険者であった期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
|---|---|---|---|
| 65歳未満(全年齢) | 90日 | 120日 | 150日 |
被保険者期間が1年未満でも、特定理由離職者として受給資格を得た人は90日です。
特定受給資格者(倒産・解雇など)と、雇い止めの特定理由離職者
| 年齢 | 1年未満 | 1〜5年 | 5〜10年 | 10〜20年 | 20年以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | なし |
| 30〜34歳 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
| 35〜44歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
| 45〜59歳 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
| 60〜64歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
会社から退職を勧められた、解雇されたなど、病気以外の事情が離職の理由になった場合は、こちらの表になることがあります。判断はハローワークです。
就職困難者
| 年齢 | 被保険者期間1年未満 | 1年以上 |
|---|---|---|
| 45歳未満 | 150日 | 300日 |
| 45〜64歳 | 150日 | 360日 |
就職困難者に当たる人
就職困難者は、障害のある人などです。厚生労働省の業務取扱要領は、身体障害者、知的障害者、精神障害者などを挙げています。がんと診断されたことそのもので決まる区分ではありません。
身体障害者の範囲には、ぼうこう又は直腸の機能の障害(永続し、日常生活が著しく制限される程度のもの)や、音声機能・言語機能の喪失も含まれます。確認に使うのは身体障害者手帳などです。
手術で人工肛門や人工ぼうこうを造設した人、喉頭を摘出した人は、身体障害者手帳の対象になることがあります。手帳の認定基準と申請の流れは身体障害者手帳(がんの場合)にまとめています。
見落としやすいのは時点です。就職困難者かどうかは、受給資格の決定のときの状態で見ます。決定のあとに手帳を取っても、その受給資格の日数は変わりません。
決定のときにすでに当たっていたのに申し出ていなかった場合は、支給が終わった日の翌日から2年以内に判明すれば、日数を変更する扱いです。手帳を持っている人は、求職の申込みのときに必ず持っていきましょう。
いくらもらえるか:基本手当日額の計算
1日あたりの額(基本手当日額)は、離職前6か月に毎月決まって支払われた賃金の合計を180で割った「賃金日額」に、給付率を掛けて出します。賞与は含みません。
給付率は60歳未満で80〜50%(60〜64歳は80〜45%)で、賃金が低いほど高い率です。上限と下限は毎年8月1日に見直されます。
| 離職日の年齢 | 基本手当日額の上限(2026年8月1日から) |
|---|---|
| 30歳未満 | 7,450円 |
| 30〜44歳 | 8,270円 |
| 45〜59歳 | 9,110円 |
| 60〜64歳 | 7,830円 |
| 下限(全年齢) | 2,562円 |
計算例:45歳、毎月の賃金27万円、被保険者期間15年
離職前6か月の賃金は27万円×6か月=162万円。賃金日額は162万円÷180=9,000円です。
賃金日額が5,480円以上13,490円以下の60歳未満の人は、0.8×賃金日額−0.3×{(賃金日額−5,480)÷(13,490−5,480)}×賃金日額で計算します。
9,000円なら7,200円−約1,186円で、1円未満を切り捨てて6,013円です。
厚生労働省も、賃金日額9,000円の60歳未満の人の日額を6,013円と示しています。給付率は約67%です。
| 場合 | 所定給付日数 | 受け取れる総額の目安 |
|---|---|---|
| 病気による特定理由離職者 | 120日 | 6,013円×120日=721,560円(待期7日のあとから) |
| 正当な理由のない自己都合と判定 | 120日 | 総額は同じ721,560円。支給の開始が待期のあと1か月遅れる |
| 就職困難者(受給資格の決定時に身体障害者手帳などがある) | 360日 | 6,013円×360日=2,164,680円 |
4週間に1回の認定で受け取るのは、原則として28日分の6,013円×28日=168,364円です。月給27万円の約6割にあたります。
基本手当は非課税で、確定申告は要りません。ただし、協会けんぽの基準では、日額3,612円以上の基本手当を受けると家族の扶養の収入の条件を超えます。協会けんぽの基準は被扶養者で説明しました。
65歳未満で特別支給の老齢厚生年金を受けている人は、求職の申込みをすると、基本手当を受け終わるまで年金が全額止まります。どちらが多いかは年金事務所で確かめましょう。
がんの治療後に受給するときに気をつけること
- 働く時間:雇用保険に入らないような短時間の仕事(原則として週20時間未満)だけを希望する人は、基本手当を原則として受け取れません
- 通院と認定日:認定日はハローワークが指定し、原則として4週間ごとです。経過観察の通院日と重なりそうなら、早めにハローワークに相談しましょう
- 体調の波:受給中に体調を崩して働けない日が続いたときの扱いは、日数で変わります(次の節)
- 職業訓練:ハローワークが公共職業訓練の受講を指示した場合は、訓練中に給付日数が終わっても訓練が終わるまで基本手当が出ます
受給中にまた働けなくなったら:雇用保険の傷病手当
求職の申込みのあとに病気やけがで働けなくなったとき、何日続くかで扱いが分かれます。
| 働けない期間 | 扱い | 手続き |
|---|---|---|
| 14日以内 | 基本手当がそのまま出る | 認定日に行けないときは、認定日の変更を相談する |
| 15日以上 | 基本手当の代わりに、雇用保険の「傷病手当」が出る。日額は基本手当と同じ | 治った後の最初の認定日までに、傷病の認定を受ける(申請書と受給資格者証。代理人・郵送も可) |
| 30日以上 | 傷病手当の代わりに、受給期間の延長を申し出ることもできる(最大4年) | どちらにするか、事前にハローワークに相談する |
雇用保険の傷病手当は、健康保険の傷病手当金とは別の制度です。健康保険の傷病手当金を受ける日には、雇用保険の傷病手当は出ません。待期や給付制限の期間中の日も対象外です。
受給期間を延長したあとに同じ病気を理由に傷病手当を申請すると、支給される日数は、延長しなかった場合に支給できた日数が限度になります。
再発や治療の再開で長く休む見込みがあるなら、傷病手当にするか延長にするかで受け取れる時期が変わります。迷ったら、決める前に住所地のハローワークに聞きましょう。
健康保険の傷病手当金(退職後の継続給付)の要件は傷病手当金(がんの場合)にまとめています。
早く再就職したとき:再就職手当
「失業保険は全部もらい切ってから就職したほうが得」というのも誤解です。給付日数を3分の1以上残して安定した仕事に就くと、残りの日数に応じた再就職手当が出ます。
| 就職したときの支給残日数 | 再就職手当の額 |
|---|---|
| 所定給付日数の3分の2以上 | 基本手当日額×支給残日数×70% |
| 所定給付日数の3分の1以上 | 基本手当日額×支給残日数×60% |
| 3分の1未満 | 出ない(障害のある人などは常用就職支度手当の対象になることがある) |
計算に使う基本手当日額には上限があり、60歳未満は6,745円、60〜64歳は5,454円です(2027年7月31日までの額)。
上の計算例の人(日額6,013円、所定給付日数120日)が、残り90日で就職すると、90日は120日の3分の2(80日)以上なので70%です。
6,013円×90日×70%=378,819円になります。残り50日なら60%で、180,390円です。
再就職手当の主な要件
- 7日の待期が終わってからの就職である
- 就職日の前日までの失業の認定を受けたうえで、支給残日数が3分の1以上ある
- 1年を超えて勤務することが確実で、原則として雇用保険に入る働き方である
- 辞めた会社(関係の深い会社を含む)に再び雇われたのではない
- 求職の申込みの前から内定していた会社ではない
- 給付制限がある人は、待期のあと1か月の間はハローワークか職業紹介事業者の紹介による就職である
- 過去3年以内に再就職手当・常用就職支度手当を受けていない
- 支給申請書を、就職した日の翌日から1か月以内に出す
再就職先で6か月以上働き、その間の賃金が辞める前より低い場合は、就業促進定着手当が上乗せされることがあります。体力に合わせて勤務時間を抑えた仕事に就く人は、確かめておきましょう。
ハローワークの長期療養者の就職支援
がん、肝炎、糖尿病などで通院や経過観察を続けながら仕事を探す人のために、ハローワークに専門の相談員が置かれています。配置されているハローワークは、厚生労働省のページの一覧で確かめられます。
本人が同意すれば、がん相談支援センターなどと治療の状況や仕事で配慮が必要な点を共有し、それを踏まえた職業相談や紹介を受けられる仕組みです。がん診療連携拠点病院などへの出張相談もあります。
令和7年度は、この事業の支援で約5,500人が就職しました。在職中で、仕事を続けるか辞めるかを相談したい人も対象です。
職業相談や紹介を受けた記録は、失業の認定の求職活動の実績にもなります。
会社に在籍したまま治療を続ける場合の進め方はがん治療と仕事の両立で説明しています。
よくある質問
がんで辞めたら、必ず特定理由離職者になりますか?
なりません。ハローワークが、離職した時点で病気のために前の仕事を続けるのが困難だったかを、本人と会社の主張、医師の意見書などの資料で確かめて判断します。
辞めた理由が病気だったことを示す書類を、受給の手続きのときに持っていきましょう。
特定理由離職者になれば、給付日数は会社都合と同じになりますか?
病気で辞めた特定理由離職者は、一般の離職者と同じ90日・120日・150日です。会社都合と同じ日数になるのは、有期契約が更新されなかった特定理由離職者に限られます。
病気の場合に変わるのは、給付制限がないことと、被保険者期間6か月以上でも受給できることです。
療養中に受給期間の延長をしていませんでした。もう受け取れませんか?
延長の申請は、延長後の受給期間の最後の日までなら受け付けてもらえます。ただし申請が遅いと、延長しても所定給付日数の全部は受け取れない可能性がある、とハローワークは注意しています。
まず住所地のハローワークに相談しましょう。
65歳を過ぎてから辞めた場合も同じですか?
65歳以上で辞めた人は基本手当ではなく、高年齢求職者給付金という一時金です。被保険者であった期間が1年以上なら基本手当日額の50日分、1年未満なら30日分を1回で受け取ります。
受給期間の延長の制度は使えません。
受給中にアルバイトをしてもいいですか?
働いた日と収入は、収入がなくても失業認定申告書に必ず書きましょう。働いた日は支給の対象にならなかったり、収入に応じて減額されたりします。申告しないと不正受給になります。
週20時間以上で31日以上続く見込みの仕事に就くときは、就職の手続きが必要です。