がん細胞に共通するもっとも重要な性質は、もはや細胞が遺伝子によって正常にコントロールされることなく、無制限に自分と同じ性質をもつ細胞を増やすこと(増殖)です。
そこで抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑制・阻止することを主要な目的として開発されてきました。細胞が増殖するには、まず自分の遺伝情報をもつDNAを複製し、ついで2つに分裂する必要があります。
細胞は4つの段階を順にくり返しながら増殖します。つまり、①DNA合成準備期、②DNA合成期、③細胞分裂準備期、それに④細胞分裂期です。これを「細胞周期」と呼びます。正常な細胞は一般に、1回の細胞周期に24時間かかります。多くの抗がん剤は、活発に増殖しているがん細胞、すなわちより頻繁に細胞周期をくり返すがん細胞に対してより高い効果を発揮します。
というのも抗がん剤のほとんどは、がん細胞の遺伝情報を刻み込んでいるDNAの合成をさまたげるはたらきをもち、その作用によって細胞の増殖を抑えるからです。つまり、DNAをつくる機会がより多い種類のがん細胞ほど抗がん剤によるダメージを受けやすいのです。
さらに、すべての抗がん剤は基本的に使用される量によって効果の現れ方が変わります。すなわち、量が少ないときには何の作用も示さず、量を増やすにしたがってがん細胞を殺す効果が強く現れるようになります。
ただし一定量を超えると「プラトー(頭打ち状態)」に達し、それ以上効果が高まることはありません。また多くの場合、抗がん剤の効果はがん細胞が楽にさらされる時間が長いほど高まります。というのも、時間が長くなればなるほど、その間にがん細胞がDNAを複製する期間に入る可能性が高くなり、結果として抗がん剤の作用を受ける細胞の割合が増えるからです。
したがって、より大量の抗がん剤をより長時間作用させれば、当然がん細胞を殺す効果はそれだけ高まると考えられます。しかしここで忘れてはならないのは、「抗がん剤は人間の正常な細胞に対しても毒性をもつ」ということです。細胞周期をくり返して増殖している細胞はがん細胞だけではありません。
正常な細胞も体の機能を維持するために増殖しているので、当然抗がん剤の影響を受けます。とくに、骨髄中の造血細胞、粘膜や毛根の細胞などは、正常細胞の中でも細胞分裂がさかんであるため、増殖を抑制する抗がん剤の効果を受けやすいといえます。
そのため抗がん剤を使うと白血球の減少や口内炎、脱毛などの副作用が生じることがあります。したがって抗がん剤の用量は薬の性質をよく検討してから決めなければなりません。それには、正常細胞とがん細胞がそれぞれ抗がん剤によってどの程度ダメージを受けるか、その差が問題になります。
一般に抗がん剤はがん細胞に対して(正常細胞に対するよりも)低い濃度で効きめを現すことがわかります。
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