がんを宣告されると、誰でも強い衝撃を受けます。エイズやアルツハイマー病、痴呆症(認知症)などの場合も同じでしょう。
それは、これらの病気が患者をひどく苦しめ、なおかつ死へと導く不治の病と見られており、最新の治療を受けても完治することはほとんどないと、経験的に考えられているからです。
たしかに最近では、ある種のがんが早期発見と早期治療によって進行を抑えられたり、ときには治癒することもあります。しかし、膵臓がんや胆道がん、あるいは悪性の脳腫瘍など、依然として治療の困難ながんが数多くあり、治癒可能とされるがんでも、発見が少し遅れただけで命取りとなります。
では、なぜ命取りになるのでしょうか。がんが宿主(この場合は人間)を殺す最大の理由は、がん細胞もつ特異な性質にあります。がん細胞は、栄養と酸素が供給されるかぎり際限なく分裂・増殖し、がん細胞の固まりであるがんをつくります。
それはもともとその人間の体の一部であるにもかかわらず、あたかも組織や臓器に取りついて次々と子どもを増やしていく未知の生物のようです(がんは別名「悪性新生物」とも呼ばれます)。
がん細胞は、ひとつが分裂して2つになる(増殖)ときには、非常に多くの栄養とエネルギーを必要とし、同時に、正常な細胞を壊死させる物質を放出します。この物質は、体の正常な組織のはたらきをさまたげたり食欲を減退させたりするため患者の体は急速に衰弱していきます。
私たちの体をつくっている正常な細胞は、ほとんどが決まった場所で生まれそこで死んでいきます。(血液中の白血球や赤血球のような例外もあります)ところががん細胞は、リンパ管や血管を通って他の臓器に簡単に移動し、そこに定着して増殖することができます。つまりがん細胞には、体の中を移動して別の場所に居座りそこでまた成長する「転移」の能力があります。
一方、こうしてがん細胞に取りつかれ、自分の内部や表面で急速に増殖された臓器は、当然ながら自らのはたらきを妨害されるようになります。がんが進行すると、ほとんどの患者が"激やせ"つまり体重の著しい減少を経験します。
がん患者が2週間で10キログラムとか1カ月で15キログラムという極端なやせ方をするのは、脂肪と筋肉が失われるだけでなく、臓器をつくっている組織そのものが消耗するためです。また赤血球も減少して貧血状態になります。体重の減少がとりわけ激しいのは、消化器系にがんが広がっている場合です。
これは、がんが患者の消化器系の組織から猛烈な勢いで栄養分を奪うことが原因とされています。こうなると、ほとんどの患者が「悪液質」、すなわち栄養失調で全身が衰弱した状態となり、目のまわりや下半身が腫れたり、皮膚が黄白色になったり、皮膚に色素が沈着して黒ずんで見えるなどの症状が現れます。
がんがここまで進行すると患者の免疫機能も低下し、がんと闘う白血球が本来のはたらきを失います。そのため、わずかな感染に対しても抵抗力がなくなり、簡単に発熱したり、全身がひどい疲労感におおわれるようになります。
こうして多くの臓器の生命を紺持するはたらきが低下していき、最後に、呼吸機能や心臓を動かす機能がはたらかなくなったとき、患者に死が訪れます。しかし、このような過程をくわしく追っていくと、その中に、がんと闘うヒントが隠されていることもわかります。
たとえば、がんがそれほど大量の栄養と酸素を必要とするのなら、がんへの栄養補給路を断ってしまえば、がんは立ち枯れになるはずです。また、がんの恐るべき増殖能力を遺伝子のレベルでくい止められるなら、がん細胞は生き続けることができないはずです。他にも、がんの成長をストップさせるいろいろな方法が考えられています。
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