ある人ががんになりやすいかどうかは、その人がどんな体質で、どういう病歴をもち、どのような生活環境で暮らしているかを見れば、おおむね推測することができます。
つまり、明らかにがんになりやすい人がいるのです。第1はヘビースモーカーで、しかも喫煙歴の長い人です。
このような人は、肺がんなどさまざまながんを発症する危険性が高いことは、統計的にも示されています。たとえば、ヘビースモーカーが肺がんを発症する確率は15パーセント(100人15日人)以上であり、これは非喫煙者の20倍以上です。
喫煙歴に飲酒歴が加わると、がん発症の確率はさらに高くなります。第2は、ある種のウイルスに感染している人や、過去に感染したことのある人です。とくにB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染している人は、肝がん(肝臓がん)になる危険性が高いといえます。
第3は、遺伝子にある種の異常や変異をもつ人です。このような人は、がんになる準備段階にあるといえます。というのも、がんは、細胞中の遺伝子の変異が積み重なることによって生じるからです。
たとえば、13番染色体にある「RB」という遺伝子が変異している人は、網膜芽腫(眼の網脱にできるがん。乳幼児に多い)になる危険性が高く、「APC」という遺伝子に異常があると、大腸がんを発症しやすいことがわかっています。
また「BRCA1」という遺伝子の変異は、乳がんになる危険性が高いことを示します。さらにがん抑制遺伝子のひとつである「p53」に異常が見られる人は、肺がんや他の数種類の臓器のがんを発症する確率が高くなります。
さらに、これらの遺伝子の異常が重複して見られる場合には、がん発症の危険性がいっそう高くなります。たとえばRB遺伝子とp53遺伝子の両方に異常があると、骨のがんである骨肉腫などを生じる可能性が高いと見られています。
第4は、がんに変わる可能性をもつ異常な組織、すなわち「前がん病変」をもつ場合です。たとえば、口腔内の白斑症は口腔がんの前がん病変であり、大腸のポリープは大腸がんの前がん病変です。また、肝硬変や肝腺腫(肝臓の良性腫瘍)は、肝臓がんの前がん病変と考えられています。
この種の病変ががんになりやすいことは、昔から、臨床病理学的に知られていました。前がん病変とは、ハイリスク(高危険度)の概念の中でも、単なる危険性からさらに一歩がんに近づいていることを示す、病理学的な名称なのです。
第5は、かつてがんを発症したことがある人です。治療後、がんの再発も転移もなく健康な生活を送っている人も、ふたたびがんを発症する危険性が高いのです。ある報告では、その確率は、がんになったことがない人の5倍にも達します。
たとえば、喫煙や飲酒などの環境因子によって食道がんを発症すると、いったん手術でがんを除去しても、周辺の残った組織から新しいがん細胞が次々に生じることが少なくありません。これは、食道が長い間、がんの危険要因にさらされていたため、組織全体ががんを生じやすい状態(細胞中の遺伝子の変異が積み重なった状態)になっているためと思われます。
また、最初にできたがんに対する治療として化学療法や放射線治療などを受けると、正常な細胞中の遺伝子が変異するためか、新たに細胞の悪性化(がん化)が起こる確率がいっそう高まるようです。
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