がん細胞は正常な細胞と異なり、無秩序に増殖していきます。
その増殖の指令を伝達する分子の経路を、ピンポイントで攻撃して断ち切り、がん細胞を死滅させる薬剤が「分子標的治療」です。従来の抗がん剤はがん細胞と正常細胞が同時に攻撃の的となりましたが、分子標的治療ではがん細胞のみを狙い撃ちします。
この治療法は、白血病、リンパ腫、肺がん、乳がんなど、多くのがんですでに標準治療になっています。
乳がんでは、トラスツマブ(商標名「ハーセプチン」) やラパチニブ(商標名「タイケルブ」)が分子標的薬剤として、HER2タンパク(がん細胞の表面に出るタンパク)の分子構造を狙い撃ちにします。
HER2タンパクは、がんの増殖に必要な物資を細胞の外から内に取り込むもので、その働きが活発なほどたちが悪いがんです。
分子標的薬剤はその働きを止める攻撃を果たします。
HER2陽性とは、細胞を染めてHER2タンパクが豊富にあれば「HER2染色陽性」と言い、染色体上のHER2遺伝子が増幅していれば「HER2フィッシュ陽性」と言って判断します。
乳がんの患者さんの2割から3割の人が、トラスツマブやラパチニブの分子標的治療の適応になります。トラスツマブは現在、乳がん手術の後と進行再発乳がんに対してのみ、保険適応となっています。しかし、術前にトラスツマブと化学療法を組み合わせた術前薬物療法では、約半数の患者で乳がんが消失したと報告されています。
したがって、そう遠くない先に、術前薬物療法としてトラスツマブが保険適応になるものと期待されています。術後の投与法は、3週毎に1回点滴投与で1年間行われます。
トラスツマブは合成されたヒト抗体ですが、一部ネズミの抗体の構造を持っているために、初回投与時に38度を超える発熱が見られることがあります。なお、ラパチニブはハーセプチンが効かないHER2陽性乳がんに対する分子標的治療として位置づけられています。
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