すべてのがん患者にとって、飲んだり注射したりするだけでがんを治療できる「がん特効薬」のほど、待ち望まれるものはありません。
しかし、残念ながらいまのところそのような薬は存在しません。がんの薬といえば抗がん剤ですが、抗がん剤などの化学物質を使う治療法を一般に「化学療法」と呼びます。
これまで広く用いられてきた抗がん剤は、たしかに多くの種類のがんに対して治療効果があるものの、がんに対してだけでなく、正常な細胞にも損傷を与えます。そのため副作用がひどく、ある程度進行したがんに対しては、がん治療効果より、むしろ副作用による患者の肉体的、精神的負担のほうが大きいことも少なくありません。
そこで、もしがん細胞だけを見分けて殺すような薬があれば、がん治療は劇的に変わると考えられています。実際、世界中の多くの研究者が、そのような薬を開発しようと苦心しています。これを実現するには、まず、正常な細胞の中からがん細胞だけを見分けなくてはなりません。
それには、がん細胞の表面にのみ存在する特殊なたんぱく質を見つける方法が考えられます。人間の体には免疫力が備わっており、体外から入ってきた病原体や毒素、あるいは体内で生じたがんを識別して攻撃します。
この免疫の主役のひとつが、「抗体」と呼ばれるたんぱく質です。抗体は、体の敵である病原体や毒素、あるいはがん細胞をつくっている分子と選択的に結合し、それらの有害な作用を止めたり、白血球やリンパ球などの免疫細胞を呼び集めるはたらきをします。
これらの抗体は一般に非常に特殊な分子構造をもっており、特定の種類のがん細胞のたんぱく質や病原体とのみ結合します。健康な細胞には、まったく影響を与えません。そこで、特定のがん細胞のみを識別して攻撃する抗体を大量につくり出し、がん患者に投与するという治療の試みが始まりました。
このような性質の抗体を、「モノクローナル抗体(単クローン抗体)」と呼びます。日本では2001年、乳がん患者に対するモノクローナル抗体療法が承認されました。この治療で用いられる薬(トラスツズマブ。商品名ハーセプチン)は、「HER2」と呼ばれる遺伝子がはたらいている乳がんに対してのみ有効です。
このタイプの乳がんは「HER2強陽性乳がん」と呼ばれ、がん細胞の増殖スピードが非常に速く、転移を起こしやすい特徴をもっています。乳がん患者の約4人に1人が該当します。他にも現在、各種のがん細胞の増殖を指令する情報を止めることによってがんの増殖を防ぐ薬などが、次々に開発されつつあります。
このように、がん細胞のもつ特定の分子と結合してその機能を妨害する薬を「分子標的薬剤」と呼びます。これは、がん細胞も正常細胞も無差別に殺す従来の抗がん剤に代わる新薬として、たいへん期待されています。(トラスツズマブも分子標的薬剤の一種です)
一方、これとはまったく別の方向からがんを攻撃する薬である「血管新生阻害剤」にも、大きな期待がかけられています。この薬は文字通り、がんの内部に新しい血管がつくられるのを妨害し、がんへの栄養と酸素の供給を絶って、がんを餓死させてしまう薬です。
がんが急速に成長するには、正常な細胞よりもずっと大量の酸素と栄養を必要とします。そのためがんは、近くの血管から新しい毛細血管を伸ばさせ(血管新生)、それを自分の内部に引き寄せようとします。もしこのとき血管がつくられなければ、酸素と栄養を得られないがんは死滅するか、少なくとも成長を阻害されるはずです。
そこで、血管の成長をじゃまする薬を投与して、がんを飢え死にさせるというのが血管新生阻害剤の考え方です。この研究はいま急速に進んでおり、日本でも数多くの臨床実験が実施されています。
この薬は、急速に増殖する固形の悪性腫瘍なら、基本的にどんな腫瘍にも効くはずです。しかし、血管の成長を阻害することが患者の健康な組織にどんな影響を及ぼすかは、まだわかっていません。
そのような薬は、がんがつくり出す毛細血管だけでなく、正常な血管にも障害を与える可能性があります。少なくとも、傷の治りを遅くする、妊娠している場合には胎児の発育をさまたげる(このため妊婦は使用できません)、などの副作用があることはたしかです。
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