肺がんは病期と組織型により予後が異なります。
小細胞がんと非小細胞がんでも予後が異なりますが、小細胞がんが手術対象となることはきわめて少なく小細胞がんの全切除例に占める割合は3%程度です。肺がんの組織型別の生存率をみると、小細胞がんは非小細胞がんよりも予後が不良ですが、非小細胞がんの各組織型における予後の相違は少なく同じ病期であれば予後はほぼ同様と考えてよいでしょう。
肺がん手術症例の治療成績は一般的に5年生存率で表されます。そのほかに手術から半分の患者が死亡するまでの期間を中間生存期間として示すことがあります。生存率は病期によって大きく異なるため病期別の生存率として示されます。
■日本の肺がん手術の成績
日本の肺がんの治療成績は欧米の成績よりも良好です。これは肺がん以外の多くのがんでもいえることなのですが、日本人のがんが、ほかの国の人のがんよりも治りやすいのか、日本のがんに対する治療が欧米よりも優れているのか明確ではありませんが、5年生存率で比べた場合、肺がんでは明らかに日本の治療成績は良好です。
■男女別の手術成績
肺がん手術症例の予後は男性と女性で異なります。男性では3年生存率が約71%、5年生存率が約59%なのに対し、女性ではそれぞれ約81%、約70%と男性よりも10%以上も生存率がよくなっています。
この最も大きな原因は、女性のほうが早い病期で発見されることが多いということと、非喫煙者の肺がんが多く、術後の合併症が少なく、手術に関連する死亡が少ないといったことがあげられます。
■病期別の手術成績
予後に関与する因子として最も重要なものは病期です。手術した場合には、切除した標本の病理検査による病期により判定します。日本の肺がん手術例の治療成績は、日本肺癌学会、日本呼吸器外科学会で肺癌登録合同委員会をつくり、日本の386施設の協力により、1999年度の肺がん切除症例、1万3344例について報告しています。
それによると、病期ＩA期の5年生存率が83%、ＩB期が66%、ⅡA期が60%、ⅡB期が47%、ⅢA期が33%、ⅢB期が30%、Ⅳ期が23%となっています。
「国際肺がん学会」がアメリカ、ヨーロッパ、アジアの多くの国の肺がん症例の調査を行い、肺がんの新しい病期分類を作成するための資料から10万809例の肺がん症例のデータを集め、そのうち非小細胞がん切除例で病理検査による病期の記載のある1万6937例について生存率を解析したものがあります。
日本のデータよりも少し古い症例を用いています。病期は、今年改定される予定の新病期分類に従って分類されています。現分類と異なる点は多少ありますが、だいたい同じと考えてよいでしょう。
この世界の肺がんの治療成績は、日本のデータよりもやや悪く、ＩA期の5年生存率が73%、ＩB期が58%、ⅡA期が46%、ⅡB期が36%、ⅢA期が24%、ⅢB期が9%、Ⅳ期が13%となっています。手術から半分の患者が死亡するまでの中間生存期間は、ＩA期が119か月、ＩB期が81か月と短くなり、ⅡA期以上の中間生存期間は5年にとどきません。
ⅢB期は13か月、Ⅳ期は17か月と2年もたたないうちに半数以上の患者が亡くなっています。これらの肺がんの治療成績のデータはすべて、死亡原因に関係なくすべての死亡を含む生存率のため、肺がん以外の原因で死亡した人もたくさん含まれています。
また、日本人は平均寿命が男女ともに世界一であることが、がんの生存率をよく見せている1つの原因になっている可能性があります。基本的に、肺がん切除例の5年生存率は病期が進行するほど悪くなります。
通常ⅢB期、Ⅳ期は手術の対象となりませんが、手術してはじめてⅢB期あるいはⅣ期とわかった症例、遠隔転移があっても、完全切除が可能と考えて手術を行った症例などが含まれています。
手術でがんを完全に切除できたと思っても再発が見られるのは、手術のときにすでに目に見えない転移が存在したか、がんが血管やリンパ管の中に入っていたと考えられます。
手術を行っても、再発が多いような進行した病期の場合は、術後の補助化学療法が必要と考えられます。
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