がんを経験した人は、たとえさまざまな治療を受けて完治したように思えても、自分が「健康な体を取り戻した」とすぐに安心することはできません。
いちどがんを発症した人は、ふたたびがんになる可能性がたいへん高いからです。これには、おもに3つの理由があると見られています。第1は、治療後にも、わずかな数のがん細胞が残っていた場合です。
たとえば、がんが最初に生じた場所の周囲の組織に侵入していたがん細胞が、手術の際に取り残された、あるいは、すでに遠隔の臓器に転移していたがん細胞に気づかずに治療を終了したりしたなどの場合には、残された少数のがん細胞が増殖して、ふたたびがんとして成長を始めます。
第2は、ひとたびがんを発症した患者は、たとえ最初のがんを除去しても、"がんになりやすい状態"の体そのものは変わっていないためです。がんは、いくつかの遺伝子の変異が積み重なって発生します。たとえば、長年タバコの煙やアスベストなどの発がん性物質にさらされてきたがん患者や、環境中のある種の発がん物質を代謝して無毒化できない患者の体には、がんができたところ以外でも、遺伝子の変異が生じている可能性があります。
そのような場合、1つのがんを治療しても、遠からず同じ臓器の別の場所や他の臓器に、2つ目、3つ目のがんができる可能性が高いと考えられています。第3は、がん治療の過程で抗がん剤治療や放射線治療を受けたことが、がん発症の原因になり得るためです。放射線や抗がん剤の多くは、DNAを傷つけることによってがん細胞を殺します。
しかしこの治療法では、正常な細胞の遺伝子も傷つけられるため、それらが変異を起こして、ついにはがん化することがあります。たとえば、子ども時代にがんを治療した人が、おそらくは抗がん剤や放射線による治療によって第2のがん(二次がん)を発症する割合は2~10パーセントともいわれます。
治療後に発症する二次がんとしては白血病や悪性リンパ腫が多く、他にも肉腫、子宮がん、甲状腺がん、乳がんなどを発症しやすいことが知られています。放射線治療については、一般に大量の放射線を浴びるほど二次がんを生じやすいとされます。
また、抗がん剤にも二次がんを引き起こしやすい種類のものがり、植物アルカロイドのエトポシドやアルキル化剤のシクロホスファミドを使った場合には、二次がん発生率が高くなります。また、乳がんなどでホルモン療法を受けた人も、ホルモンに関係する子宮がんなどを生じる可能性がわずかに高くなります。
これらのうち第1のケース、つまり最初の治療でがん細胞が完全に取り除かれなかったためにがんを発症した場合が、「再発」と呼ばれます。しかし実際には、このような再発と、第2、第3のケースによって新たに発生したがん(二次がん)を見分けることは、難しい場合もあります。
がんの再発は治療後2~3年以内に起こることが多く、一般には、遅くても5年以内に再発するといわれています。しかしなかには、乳がんや腎臓がん、甲状腺がんのように、がんが長い間息をひそめていて姿を現さず、10年以上たってから再発する例もあります。これらのがんで再発がこれほど遅い理由は、まだよくわかっていません。
再発したがんの治療は、多くの場合、非常に困難です。その理由は、再発したがんは、治療時に除去できなかった浸潤や転移で生じたがん細胞から成長しているからです。
このようながん細胞は、浸潤や転移に必要なさまざまな能力、具体的には新しい血管をつくり出したり細胞の周囲の膜を溶かしたりする能力を身につけて、すでに「悪性度」が高くなっています。
つまり、以前のがん以上にすばやく成長し、すばやく転移する性質をもつのです。また、手術が困難な肺や脳などで再発したり、すでに臓器を大きく切除しているため患者の体がそれ以上の手術に耐えられないなどの場合もあります。
さらに、最初の治療時に抗がん剤を投与されていた場合、がん細胞が薬に対して耐性(抵抗力)を備えているため、再発時には抗がん剤が効かないことも少なくありません。このようなことから、再発したがんに対しては、痛みの治療など"生活の質"を向上させる処世にとどめて、がんそのものは治療しないこともあります。
そこで、最初の治療時に、発生場所のがんだけでなく、まわりに浸潤したり別の組織に転移したがん細胞を完全に取り除き、再発を防ぐことがきわめて重要になります。しかし、それは容易なことではありません。
がん患者の約半数は、がんが発見された時点ですでに、リンパ節などに転移していると見られています。しかし転移したがんは微小であることが多いため、しばしば発見が困難です。そのため、病理診断によってリンパ節には転移していないと判断された患者に、がんが再発した例も少なくありません。
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