日本では2OO7年4月1日から、「がん対策基本法」が施行されました。
これはがんが国民の生命と健康に重大な問題になっていることから、がん対策をいっそう充実させようとする法律です。現在のがん治療は、この法律にもとづいて推進されています。
そこでは「がん医療に関する情報の収集提供体制の整備」についてしるされており、情報を集めようとする患者を、医療側が支援する体制が必要だとされています。しかし法律に書かれているから、セカンドオピニオンを聞いて情報を集めようというわけではありません。
セカンドオピ二オンが必要な第1の理由は、最初の診断が確実かどうかを確かめることにあります。最初の病院のがんという診断(確定診断)には、ひょっとして誤りがあるかもしれません。
また治療法を説明してくれた医師は、提案した治療法のメリットとデメリットを十分に説明したかどうかわかりません。さらに、ほかの治療法があることと、ほかの治療法のメリットとデメリットを十分に説明したかどうかもわからないでしょう。
いまはがんの治療法は非常に複雑になっています。十分に納得して治療を受けるためには、もういちど主治医が提案した治療法について確かめておく必要があり、そのためにはセカンドオピニオンを聞くしかありません。
がんの治療方針をきめるとき、病理医という専門家が決定的な役割をはたします。病理医とは、患者のからだからとった細胞や組織を顕微鏡で調べ、細胞や組織のかたちからがんかどうかを診断する医師のことです。ところが現在の日本には、この肝心の病理医が2000人程度しかいません。
アメリカには1O倍の2万人もの病理医がいるそうですが、日本では病理医がいない病院が少なくありません。だから、病理医がいない病院の診断には、誤りがあるかもしれません。
たとえ病理医がいても、判断に主観が立ちいる可能性があります。病理医もまた人間ですから、絶対に誤りを犯さないということはできません。たとえ乳がんでは、ほかのがんにくらべて病理診断にむずかしい面があります。
最初に「悪性」と診断されたのに「良性の乳腺症」のことがあり、このばあいは不必要な手術を避けなければなりません。その逆に「良性」と診断されたのに「悪性」のことがあり、そのときはもちろん治療が必要になります。
またがんが「乳管」という乳腺の外に広がっていない「非浸潤がん」を、「浸潤がん」と判定されるばあいもないわけではありません。非浸潤がんであれば転移しないのですが、手術と放射線の治療が必要になります。
乳房には「石灰化」という現象がおこることがあります。乳管の分泌物が結晶化したところにカルシウムがくっついた石灰化なら、もちろん治療の必要はありません。しかし、石灰化には乳管の内側にがん細胞が密集し、中心部に栄養がいかなくなって壊死したがん細胞にカルシウムがくっついたケースがあります。
こんなばあいには、手術を考えなければなりません。その見きわめに誤りがおこる可能性があります。肺がんもまた、さまざまな理由で診断のむずかしいがんとされています。がんによってこのように診断にむずかしいところがあり、病理医の知識と経験がものをいうことになります。
病理医の診断はストレートに治療法に反映されるので、確実性がもっとも重要なことに疑いがありません。少なくとも最初の診断を受けた病院に、病理医がいるかどうかを確かめてみる必要があります。
また、セカンドオピニオンが必要な他の理由としては、医師には手慣れた方法を勧める傾向があるということです。つまり外科医は手術を、放射線医は放射線治療を、腫瘍内科医(抗がん剤などを使う専門家)は化学療法を推奨する傾向があります。
自分が経験をつんだ治療法は、もちろん、それがそれだけ使いやすく、自信をもてるということでしょう。それが患者の病気に適した治療法なら問題はありません。しかし日本のがん医療には、特殊な面があります。
たとえば欧米にくらべて、放射線治療の率が低いことです。射線治療はからだに負担が少なく、がんによっては治療成績が手術に匹敵します。欧米では65%の患者が治療のどこかで放射線の治療を受けているのに、日本では25%程度にとどまっているとされています。
その原因のひとつは、アメリカには放射線治療医が5000人もいるのに、日本には7OO人程度しかいないことにあり、このため高額の機器を設置していても使いこなせない病院が多いといわれます。それに日本では、がん患者に最初に接するのは内科医や外科医ですが、この人たちに放射線の適切な知識がないことが多く、古い知識しかもっていないか、新しい知識をとりいれようとしない傾向があるといわれます。
がんのなかでも、食道がんや前立腺がんのように治療法が複雑にいりくんでいる病気では、とくにセカンドオピニオンを聞いてみる必要があります。現在では、この両方の病気の治療で、放射線の役割が非常に重要になっているのに、高度な照射技術をもつ病院は多くはありません。
高い能力をもつ器械をもっていても、使いこなせる病院は少ないといわれています。
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