がんには、周囲の組織に入り込んでいく性質があります。
これを「浸潤」といい、がんが体をむしばむ「悪性」の病気である理由の一つです。非浸潤は、がんが周囲の組織に潜り込んでいない状態を指します。乳がんが周囲の間質組織や脂肪組織に入り込まず、乳管内にとどまっている状態である場合、正確には「非浸潤性乳管がん」といいます。
このタイプはしこりができにくいため、自覚症状はほとんどありません。乳がんのうち非浸潤性乳管がんの割合は、ここ数年で増え、1割を超えています。マンモグラフィー(乳房エックス線撮影)検診の普及などで、発見できるようになったためです。
乳管内は空洞で、がん細胞を運ぶ血管やリンパ管はないので、非浸潤がんには転移の恐れはありません。乳がんの進行期では、「0期」と分類される「超早期」の段階です。非浸潤の状態で発見、摘出すれば、ほぼ完治が見込めます。
非浸潤乳がんはがんが浸潤しないまま、一生を終える場合もあります。乳がん以外の原因で亡くなった女性を解剖した米国の報告では、6~16%の人から非浸潤性乳管がんが見つかっています。これらは命にかかわらない、おとなしい性質だといえます。
そのようながんなら、治療の必要がなく、甲状腺がんや前立腺がんでは、早期がんで一定の条件を満たせば、治療せずに経過観察する方法も取り入れられています。ところが、乳がんの場合、非浸潤がんが見つかっても、将来に浸潤するかどうかを見極める手立てがありません。
このため、高齢者や、患者が手術を望まない場合を除き、原則として手術するのが現状なのです。かつては、非浸潤がんでも乳房を全摘することが多かったですが最近はがん周辺だけを切除し、乳房を温存する治療が普及してきました。
日本乳癌学会の指針では、乳房温存療法の条件として、①がんの大きさ(乳管内での広がり)が3センチ以下②がん細胞を針でとり、顕微鏡で調べた悪性度が高くないなどを挙げています。また、乳房内の再発予防のため、手術後に放射線を照射するのが一般的です。
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