がん細胞の弱点のひとつは、正常な細胞よりも熱に弱いことです。
そこでこの弱点を利用して、熱に弱いがん細胞を高温にして死滅させようとする治療が、がんの「温熱療法」です。「ハイパーサーミア療法」と呼ぶこともあります。
がんの温熱療法の原理は、いまから2000年も前の古代ギリシア時代に発見されていました。当時すでに、肉腫(がんの一種)と発熱の関係が経験的に知られていたのです。がん細胞が本当に正常な細胞より熱に弱いかどうかは、いまではかなりよく研究されており、次のような事実が明らかになっています。
1.がん細胞は41度C以上になると損傷を受けて死に始め、42.5度C以上になると、いっそう生存率が低下する。これより高温になるほど、また長時間その温度にさらされるほど、より多くのがん細胞がより早く死滅する。
2.がんの内部は血流が少ないため、周囲の温度を上げても血流による冷却が行われにくく、その結果、温度が上昇しやすい(したがって人為的に温度を上昇させやすい)
3.がん細胞が固まり(腫瘍)をつくると、その内部では一般に酸素供給が不足し、乳酸が生じる、(乳酸はミルクを放置しておくと酸っぱくなる原因物質で、酸の一種)乳酸がたまると、がんの内部は酸性に傾き、酸性が強くなるほど、がん細胞は熱に対して敏感かつ弱くなる。
これらのことから、高温状態におかれたがん細胞が、正常細胞よりも先に損傷を受けたり死滅することはたしかです。すでに30数年前から試みられていた初期の実験的な温熱療法では、患者の体を湯の流れるマットでくるんだり、または(人工透析治療のように)患者の血流をチューブで外に引き出し、ヒーターで加熱してから体内に戻す
血液循環などが行われていました。
その後、がんの温度を効率的に上昇させるためのさまざまな方法が考え出されました。がんが浅いところにある場合は、体外から患部だけを電磁波やマイクロ波で加温する、また食道がんや直腸がん、子宮がんなどの場合は、口や肛門や膣から加熱装置を入れ、患部の温度を上昇させる、などです。
それでも、体の奥深くにあるがんは、周囲の脂肪や空気、骨などに、熱の効率的な伝達をさえぎられるため、温熱療法は難しいとされていました。しかし近年では、装置の改良により、この問題も解決されつつあるようです。
また一部の病院では、遠赤外線によって体表の血液を温め、血液循環によって体全体の温度を上げる全身温熱療法も試みられています。治療効果は、温度が高く加温時間が長いほど高まるものの、それでは患者の負担が大きくなります。
そこで現在、日本のがん治療施設での主流であるマイクロ波による温熱療法の治療時間は、1回30分~1時間となっているようです。1週間に1~2回の治療が多いようですが、毎日治療する例もあります。
なお温熱療法は、これを実施しているどこの病院でも、がんの中心的な治療法として用いられることは少なく、多くの場合、放射線治療などと併用されます。最近では、たとえば食道がんを温めるためのチューブに放射線源を入れておき、温熱療法と放射線治療を同時に行う方法も開発されています。
これは、がんの温度を高くしておくと、放射線照射や抗がん剤による治療効果が向上することがわかったために考え出された複雑な手法です。また、温熱療法と放射線治療を併用すると、放射線の副作用が減少するという"発見"もなされています。
さらに、温熱療法は、副次的な作用として、患者の免疫力を上昇させる、がんガ特有の疼痛を和らげて患者の生活の質を向上させるなどの指摘も行われています。しかし、治療を行う医師が温熱療法の原理や技術に熟達していないと、問題も生じます。
たとえば、温熱療法を同じ条件で単純にくり返していると、がん細胞はしだいに熱に対して抵抗力をもつようになり、治療効果が低下する傾向があるようです。また加温しすぎると、患者はヤケドや体の痛みに苦しむことになり、さらに体の深部に不用意に電磁波やマイクロ波を照射すると、異常な頻脈や体温上昇が生じます。
そこで、これらの問題を克服するための新しい温熱療法の技術は日々研究され進化しています。
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